チャエン

株式会社デジライズ 代表取締役

チャエン

深圳と杭州でテンセントの新本社と人型ロボット企業4社を回り、その様子を動画で公開しました。訪ねたのはUBTECH、LimX Dynamics、Unitree、DEEP Roboticsです。LimX Dynamicsの「Oli」は身長165cm・31自由度のフルサイズ人型ロボット*1で、DEEP Roboticsの車輪脚ロボット「Lynx M20S」は試験条件での最高速度が秒速9m(時速約32km)と公表されています*3。

現地で見たのは、展示会の一発芸ではなく「売る前提」で作り込まれた機械でした。先に結論を言うと、フィジカルAIはもう研究テーマではなく調達の検討対象になりつつあり、日本企業は点検・巡回・搬送のような限定した業務から小さく検証を始めるのが現実的です。この記事では動画で伝えきれなかった仕組みや各社の仕様・価格を公式情報で確かめ、企業の担当者が判断に使える形に整理します。

この話題は、私もXで紹介しました。


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フィジカルAIとは|現実世界で「見て・考えて・動く」AI

フィジカルAIは、ロボットや自動運転車のような自律機械が現実世界を知覚し、判断し、行動するためのAIです。NVIDIAは工場のロボットやロボタクシーのような自律機械に、現実世界での知覚と行動を可能にするものと説明しています*7。ChatGPTやClaudeのような生成AIが画面の中で文章や画像を作るのに対し、フィジカルAIは重力や摩擦がある物理世界で体を動かす点が違います。

開発の進め方にも特徴があります。現実で失敗させると壊れたり危なかったりするため、物理法則を再現したシミュレーションと合成データで学習・検証してから実機に載せるのが一般的です*7。私が現地で見たロボットの多くも、歩行や起き上がりの動作をシミュレーションで鍛えてから実機に反映していると説明を受けました。

観点生成AI(チャット型)フィジカルAI
主な出力文章・画像・コードロボットや車両の動作
入力テキスト・画像・音声カメラ・LiDAR・関節センサーなど
失敗したときの影響やり直しが効く物の破損やけがにつながりうる
学習の中心大量のテキストや画像シミュレーション・合成データ・実機データ
企業での導入単位アカウント・API機体の購入やレンタル+現場の整備

最近はこの2つが合流しつつあります。言葉で指示を受け取る部分に大規模言語モデルを使い、体を動かす部分を別の制御モデルが担う構成です。今回のUBTECHやLimX Dynamicsのデモも、話しかけると内容を理解して動く「言葉で頼めるロボット」でした。

深圳・杭州で回った4社|それぞれの得意分野

今回訪ねた4社は、同じ「中国のロボット企業」でも狙っている市場がかなり違います。現地で見たデモと、公式ページで確かめた代表機種の情報をまとめます。

UBTECH|言葉で頼むと果物を見分けて手渡す人型ロボット

深圳のUBTECHでは、話しかけて果物を頼むと、並んだ中から目的のものを見分けて手渡してくれるデモを見ました。人の言葉を理解し、目で物を探し、手でつかんで渡すという一連の流れが途切れずにつながっていたのが印象的です。デモ機の型番までは確かめきれていないため、ここでは公式に仕様が出ている産業向けの機種を紹介します。

UBTECHの産業向け人型ロボット「Walker S2」は、自分でバッテリーを3分以内に交換でき、15kgの物を持ち上げられると公式ページで説明されています*4。工場のラインで止まらずに働き続けることを前提にした設計で、AIの仕組みとして「BrainNet 2.0」と「Co-Agent」を組み合わせたと案内されています*4。

LimX Dynamics|ケースから自分で立ち上がり日本語で自己紹介するOli

LimX Dynamicsの「Oli」は、収納ケースに入った状態から自分で起き上がり、日本語で自己紹介してくれました。Oliは2025年7月30日に発表された身長165cmの人型ロボットで、手先を除いて31の自由度を持ちます*1。腕が片側7、脚が片側6、腰が3、首が2という配分です*1。

Oliは研究者・開発者・システムインテグレーター向けの機体として位置付けられており、Lite・EDU・Superの3エディションがあります*1。グリッパーと五指ハンドの付け替えや、カメラ・LiDARなど他社センサーの追加ができるモジュール構成で、言語モデルを載せた自然言語での対話にも対応すると発表されています*1。発表時点では中国本土向けの提供で、グローバル版は後日とされていました*1。

Unitree|CPUとカメラ以外は基本的に自社開発

杭州のUnitree本社で一番驚いたのは、内製の範囲の広さです。現地での説明では、CPUとカメラ以外は基本的に自社で開発しているとのことでした。モーターや関節を自分たちで作れるから、価格を下げながら改良の速度も保てるのだと感じました。

価格は数字で見るとよく分かります。人型ロボット「G1」の公式価格は1万3,500ドルからで、税・送料は別です*2。立った状態の高さは1,320mm、重さはバッテリー込みで約35kg、標準モデルの自由度は23、稼働時間は約2時間と公式ページに記載されています*2。研究開発向けのEDU版は営業窓口への問い合わせになっています*2。

DEEP Robotics|時速32kmの四足ロボに試乗

DEEP Roboticsでは、脚の先に車輪が付いた四足ロボット「Lynx」シリーズに試乗させてもらいました。最新の「Lynx M20S」は試験条件での最高速度が秒速9m、つまり時速約32kmです*3。ただし公式ページでは、運用時の最高速度は秒速2mとされており、最高速度はあくまで試験値である点に注意が必要です*3。

M20Sは2026年5月に発表された機種で、防塵防水はIP67、平地での連続積載は35kgです*8。公式ページでは、30cmの段差や45度の坂に対応し、負荷なしで3.5〜5時間動けると案内されています*3。用途として変電所やケーブルトンネルの点検、工場や敷地の警備巡回、火災現場の偵察が挙げられており*3、4社の中では最も「すぐ仕事に使う」姿がはっきりしていました。

4社の比較|人型と四足、研究向けと現場向け

4社を並べると、形(人型か四足か)と用途(研究開発向けか現場向けか)で整理すると分かりやすくなります。公式に確かめられた範囲で比較表にしました。価格が公開されているのはUnitree G1だけで、他は問い合わせや販売代理店経由が中心です。

企業代表機種形公式に確認できた主な仕様主な用途
UBTECHWalker S2人型3分以内の自律バッテリー交換・15kg持ち上げ工場の生産ライン作業
LimX DynamicsOli人型身長165cm・31自由度・3エディション研究開発・システム構築
UnitreeG1人型1万3,500ドルから・約35kg・約2時間稼働研究開発(EDU版あり)
DEEP RoboticsLynx M20S四足(車輪脚)試験最高速度 秒速9m・IP67・積載35kg点検・警備・災害対応

表を見ると、人型ロボットはまだ研究開発や限定的な工場作業が中心で、四足ロボットは屋外の点検や巡回で実務に入り始めていることが分かります。人型は「何でもできる汎用機」を目指す一方、今すぐ費用対効果を出しやすいのは用途が絞られた四足のほうだと私は見ています。

ロボットの評価方法にも注目しています。実機を大量に並べてロボットAIの実力を比べる取り組みについては、以下の記事で解説しています。

RoboColosseumとは?実機100台超で測るロボットAI評価基盤|使い方と比較結果

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ロボット以外に見えたもの|手のひら決済とテンセント新本社

今回の旅で、ロボットと同じくらい印象に残ったのが街の中のAIです。深圳のコンビニや駅では、スマホも財布も出さずに手のひらをかざすだけで支払う「微信刷掌(WeChatの手のひら決済)」を実際に使いました。

この仕組みは、手のひらの表面の線と皮膚の下の静脈をカメラで読み取って本人を確かめるものです*5。テンセントは深圳や広州の店舗で何か月も試験を重ねてきたと報じられています*5。一方で、手のひらの情報は漏れてもパスワードのように変えられないという懸念も指摘されており*5、便利さと生体情報の扱いをどう両立するかは日本企業にも参考になる論点です。

深圳の前海・大鏟湾エリアに建設中のテンセント新本社、通称「ペンギン島」も訪ねました。2024年10月の報道では、延床面積200万平方メートルで7万5,000人の勤務を想定し、全体の完成は2026年の予定とされていました*6。ロボット企業の拠点と巨大IT企業の本社が同じ都市圏にあることが、ハードとソフトの両方を素早く回せる中国の強さだと感じました。

自社の業務にロボットやAIを組み込みたいが、市販の機体やサービスだけでは要件が満たせないという方もいるはずです。法人向けAIリスキリングサービスの導入社数No.1*の弊社デジライズが、AIコンサルティング&開発のサービス資料を無料でお送りしています。既製のAIサービスでは要件が満たせず、自社に合わせたシステム構築や環境の検討が必要な場合の進め方をまとめています。

※出典:株式会社東京商工リサーチ「法人向けリスキリングサービスに関する調査」(2026年5月/調査期間:2026年3月26日〜4月17日/調査方法:デスクリサーチおよびヒアリング/2026年3月末時点)

日本企業でのフィジカルAI活用事例|どこから始めるか

中国の現場を見て、日本企業がいきなり人型ロボットを大量導入する段階ではないと感じました。それでも、用途を絞れば今から検証できる業務はあります。各社が公式に挙げている用途をもとに、日本企業で考えやすい使いどころを整理します。

  • 設備点検 — 変電所・プラント・トンネルなど、人が定期的に歩いて確認している場所の巡回を四足ロボットに置き換える
  • 警備巡回 — 夜間の工場や物流倉庫の見回りを自動化し、異常があったときだけ人が駆けつける
  • 危険場所の偵察 — 災害現場や有毒ガスの恐れがある場所に先に入り、映像やセンサーデータを送る
  • 工場内の搬送 — 人型ロボットに部品の箱の運搬など、決まった手順の作業を任せる
  • 研究開発・人材育成 — 価格が公開されている小型の人型ロボットを購入し、社内でロボットAIの知見をためる

最初の一歩としておすすめなのは、四足ロボットによる点検や巡回です。決まったルートを歩くだけでも、人の移動時間や夜間勤務の負担を減らせる可能性があります。人型ロボットは、まず研究開発部門で1台を触ってみて、自社の現場で何ができそうかを見極める使い方が現実的と見られます。

ロボットに言葉で指示を出す部分は、AIエージェントの考え方と近いものがあります。指示を受けて自分で手順を組み立てるAIエージェントの仕組みは、以下の記事で解説しています。

【ChatGPT Deep Research超え?】仕事を完全自動化。中国から最強AIエージェント「Manus」が登場。《機能、使い方、活用事例7選、無料オープンソースの利用方法までも徹底解説。》

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検証を始めるときの手順

  1. 業務を1つ決める — 「夜間の倉庫巡回」のように場所と作業を具体的に絞る
  2. 今のコストを測る — その業務にかかっている人数・時間・事故やヒヤリハットの件数を記録する
  3. 機体を比較する — 段差・坂・防水・稼働時間など、現場の条件に合う仕様かを公式の数値で確かめる
  4. 小さく試す — レンタルやデモ機で数週間動かし、止まった回数や人の手直しを記録する
  5. 運用ルールを作る — 立ち入り範囲、緊急停止、データの保存先を決めてから本格導入に進む

導入前に確認したい注意点|安全・データ・調達

フィジカルAIは画面の中のAIと違い、失敗すると物が壊れたり人がけがをしたりする可能性があります。導入の判断では、性能より先に次の点を確かめておくことをおすすめします。

  • 公表値と運用値の違い — Lynx M20S のように試験最高速度と運用時の最高速度が大きく違う機種もあるため、カタログの最大値ではなく運用値で計画する
  • 人との安全距離 — 人が働く場所で動かす場合は、立ち入り区域の分け方と緊急停止の手段を事前に決める
  • データの扱い — カメラやLiDARが撮った映像・点群がどこに保存され、誰が見られるのかを契約前に確認する
  • 提供地域とサポート — 中国本土向けが先行する機種もあるため、日本での販売・保守の窓口があるかを確かめる
  • 経済安全保障・社内規程 — 海外製の機体やクラウド接続について、自社の情報管理ルールや取引先の要求に沿うかを確認する

特にデータの扱いは、手のひら決済の議論と同じ構図です。便利さの裏で何のデータがどこに流れるのかを、社内の情報システム部門と一緒に確かめておくと後で困りません。

この記事の仕様や価格は、各社の公式ページと報道で確認できた2026年11月時点の情報です。機体の構成や販売地域によって変わることがあるため、導入を検討する際は各社や国内代理店に最新の条件を確認してください。

まとめ

  1. フィジカルAIとは — ロボットなどの自律機械が現実世界で知覚・判断・行動するためのAIで、生成AIとの合流が進んでいる
  2. 中国4社の現状 — 人型のUBTECH・LimX Dynamics・Unitree、四足のDEEP Roboticsとも、売る前提の実機を見せる段階に来ている
  3. 今すぐ使いやすい用途 — 費用対効果を出しやすいのは四足ロボットによる点検・巡回・危険場所の偵察である
  4. 導入前の確認 — 公表値と運用値の差、安全距離、データの保存先、国内の保守体制を先に確かめる

深圳と杭州を回って一番強く感じたのは、中国ではロボットが「未来の話」ではなく「次に何を売るか」の話になっていることでした。私のおすすめは、まず社内で業務を1つ選び、四足ロボットの巡回や小型人型ロボットの検証から小さく始めることです。動画では現地の空気感まで伝えているので、この記事と合わせてぜひ見てください。

参考資料

この記事の著者 / 編集者

チャエン

株式会社デジライズ 代表取締役

チャエン

法⼈向けのAI研修、及び企業向けChatGPTを開発する株式会社デジライズをはじめ、他数社の代表取締役。一般社団法人生成AI活用普及協会評議員を務めながら、GMO AI & Web3株式会社など他数社の顧問も兼任。NewsPicksプロピッカーも兼任。Twitterはフォロワー16万⼈。⽇本初AIツール検索サイト「AI Database」やAIとの英会話ができる「AI英会話」など複数のAIサービスも開発。ABEMAやTBSテレビなどメディア出演も多数。