チャエン

株式会社デジライズ 代表取締役

チャエン

2026年11月3日、サンフランシスコで開かれたFireworks AIのイベント「Fireworks Forge」で、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOがFireworks AIのリン・チャオCEOと対談しました*1。フアン氏は「クローズドモデルを愛している」と話す一方で、オープンなフロンティアモデルに自社の領域知識や専用ツール、適切な評価を組み合わせれば、その領域に特化した高い知能が作れると語っています*1。

フアン氏は2026年7月24日に初めてのX投稿で、オープンウェイトモデルの規制に慎重であるよう求める公開書簡を紹介し、「世界にはクローズドなフロンティアモデルとオープンなフロンティアモデルの両方が必要だ」と書いていました*2。今回の対談はその考えを企業の実務に寄せて話したものです。先に結論を言うと、企業は今は最先端のクローズドモデルで業務を回しながら、自社の強みが出る領域だけをオープンモデルで育てる準備を始めるのが現実的です。

この話題は、私もXで紹介しました。


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オープンとは|オープンモデルとクローズドモデルの違い

AIの文脈で「オープン」と言うとき、多くはモデルの重み(学習済みのパラメータ)が公開され、誰でもダウンロードして自分の環境で動かせる状態を指します。反対に「クローズド」は、モデル本体は提供元の中にあり、利用者はAPIやアプリ経由でだけ使える形です。ChatGPTやClaude、Geminiの主力モデルは後者に当たります。

どちらが優れているかという話ではなく、何を自分の手元に置けるかの違いです。違いを表にまとめました。

観点オープンモデルクローズドモデル
モデル本体重みを公開。ダウンロードして自社環境で動かせる提供元が保持。API・アプリ経由で利用
改変追加学習(ファインチューニング)など自由度が高い提供元が用意した範囲のカスタマイズのみ
データの置き場所自社サーバーや選んだクラウドに閉じられる提供元の環境に送る(契約で保護)
性能最先端に近づいているが差がある場合もその時点の最先端であることが多い
運用の手間GPU確保・推論基盤・更新を自分で持つ提供元が運用。すぐ使える
費用の形インフラ費が中心。量が多いほど有利になりやすい使った分のトークン課金が中心

「オープン」にも公開範囲の段階がある

同じオープンモデルでも、どこまで公開されているかはモデルごとに違います。導入を検討する際は、まずこの段階を確かめておくと話がかみ合いやすくなります。

  • オープンウェイト — 学習済みの重みを公開。動かす・追加学習するのは自由だが、学習データや手順は非公開のことが多い
  • データ・レシピまで公開 — 重みに加えて学習データや学習手順も公開。NVIDIAはNemotronを「オープンな重み・学習データ・レシピを持つオープンモデルのファミリー」と説明しています*4
  • ライセンスの条件 — 公開されていても商用利用の範囲や表示義務などはライセンスで決まる。モデルごとに独自ライセンスがある

NemotronのラインナップにはNemotron 3 Ultra(総パラメータ550B・稼働55B)やNemotron 3.5 Lightning(総30B・稼働3B)などがあり、大きさの違うモデルが並んでいます*4。小さいモデルは手元のGPUでも動かしやすく、用途に合わせて選べるのがオープンモデルの良いところです。

ジェンスン・フアンの持論とは|Fireworks Forgeで語った論点

報道で確認できる発言と、私の受け取り方を分けて整理します。発言の正確な言い回しは、報道で引用されたものだけを載せています。

論点報道で確認できる内容私の受け取り方
クローズドモデル「クローズドモデルを愛している」「クローズドなフロンティアモデルには確かな居場所がある」と発言*1まずは全員が最先端のクローズドモデルを使うべき、という前提
汎用か特化か「全員が汎用的な知能の上に成り立つという考えは論理的でない」と発言*1どの企業もいずれオープンモデルで自社の知能を作る
価値の残り方世界の価値の多くは領域特化のAIに宿ると語った*1外に出せるものは出し、最後に残るのは自社領域に特化した知性
作り方オープンなフロンティアモデルを適応させ、領域知識・専用ツール・適切な評価を与える*1モデルそのものより、知識・ツール・評価の設計が差になる

特に私が納得したのは「外に出せるものは全部出す」という考え方です。メールの下書きや一般的な調べものまで自社モデルで作る必要はなく、そこは最先端のクローズドモデルに任せればいい。そのうえで自社の競争力そのものになる判断や知識だけを自社で抱える、という線引きはビジネスの基本と同じです。

なおフアン氏はNVIDIAのCEOであり、クローズドでもオープンでもNVIDIAのGPUで動く限り同社の売上になる立場です*1。発言はその前提で読む必要があります。それでも私は、2年以内にオープンモデルが今のフロンティアクラスの性能に届き、しかも小型化して各社が独自モデルを持つ流れになると見ています。これは私の予測であり、確定した見通しではありません。

Kimi K3はオープン?|オープンウェイトの中身と使う条件

「Kimi K3 オープン」で調べている方も多いので、ここで整理します。Moonshot AIのKimi K3は重みが公開されたオープンウェイトモデルです。Hugging Faceのモデルカードでは、コードと重みの両方が独自の「Kimi K3 License」で公開されていると記載されています*3。

項目内容
公開形態オープンウェイト(Hugging Faceで重みを公開)*3
総パラメータ2.8兆(2.8T)*3
1トークンあたりの稼働パラメータ1,040億(104B)*3
コンテキスト長約100万トークン(1,048,576)*3
ライセンスKimi K3 License(独自ライセンス)*3
重みの公開予定日2026年7月27日と報じられていた*6

重みが公開されているので、ダウンロードして改変し、自社でホストできます*6。ただし2.8兆パラメータという規模は、一般的な企業がすぐに自社サーバーで動かせる大きさではありません。必要なGPU台数はモデルカードに明記されていないため、実際に動かす前に推論基盤の見積もりが欠かせません。

Kimi K3を自社サーバーで動かす際の実力や導入の壁は、以下の記事で解説しています。

Kimi K3のオープンウェイトが公開|自社サーバーで動かせる2.8兆パラメータAIの実力と導入の壁

Kimi K3のオープンウェイトが公開|自社サーバーで動かせる2.8兆パラメータAIの実力と導入の壁

クローズドとオープンの比較|コスト・性能・管理のしやすさ

企業がどちらを選ぶかは、性能だけでなくコストと管理のしやすさで決まります。対談でチャオ氏は「コストが制御不能だ」と述べていました*1。用途ごとの向き不向きを整理します。

用途向いているのは理由
全社員の日常業務(文章作成・調査・要約)クローズド最先端の性能をすぐ使え、運用の手間がない
新しい業務へのAI適用の試行クローズドまず性能の上限で「AIでできるか」を確かめられる
大量に繰り返す定型処理オープン(特化)処理量が多いほどトークン課金より有利になりやすい
社外に出せない機密データの処理オープン(自社環境)データを自社の管理下に閉じられる
自社独自の判断基準が必要な業務オープン(追加学習)自社の知識と評価で特化させられる

特化モデルの例として、同じイベントの別セッションではGensparkのCTOが、MiniMax M3をもとにしたスライド生成モデル「Gen-1 Slides」を紹介しました*1。同社の説明では100万トークンあたり0.30ドルで、5ドルのClaude Opus 5と同等の品質を約17分の1のコストで出せるとしています*1。これは同社自身の主張なので鵜呑みにはできませんが、用途を絞ればオープンモデルの特化でコストを大きく下げられる可能性を示す例です。

Fireworks AIは、オープンモデルの推論・組み合わせ・学習を提供するプラットフォームで、Kimi K3やMiniMax M3.1 Flashなどのオープンモデルを扱っています*5。自社でGPUを抱えなくても、こうしたサービス経由でオープンモデルを特化させる道もあります。

自社の業務に合わせてオープンモデルを組み込むなら、どこまでを外部サービスに任せ、どこからを自社で持つかの設計が要になります。法人向けAIリスキリングサービスの導入社数No.1*の弊社デジライズが、AIコンサルティング&開発のサービス資料を無料でお送りしています。既製のAIサービスでは要件が満たせず、自社に合わせたシステム構築や環境の検討が必要な場合の進め方をまとめています。

※出典:株式会社東京商工リサーチ「法人向けリスキリングサービスに関する調査」(2026年5月/調査期間:2026年3月26日〜4月17日/調査方法:デスクリサーチおよびヒアリング/2026年3月末時点)

企業での使いどころ|「外に出す領域」と「自社に残す領域」を分ける

フアン氏の話を企業の実務に落とすと、最初にやるべきはモデル選びではなく業務の仕分けです。全業務を同じAIで回そうとすると、性能かコストかデータ管理のどこかで無理が出ます。

  1. 業務を棚卸しする — AIを使う業務を並べ、「誰がやっても同じ答えになる業務」と「自社の知識や判断が差になる業務」に分ける
  2. 外に出す領域はクローズドで固める — 前者は最先端のクローズドモデルを全社で使い、使い方を定着させる
  3. 自社に残す領域のデータを整える — 後者に使う社内文書・過去の判断記録・評価基準を整理する。ここが特化モデルの材料になる
  4. 評価の仕組みを先に作る — 「この答えは自社として正しいか」を測るテストを用意する。フアン氏が挙げた「適切な評価」に当たる部分*1
  5. 小さな特化モデルで試す — 処理量が多く判断基準がはっきりした業務から、オープンモデルの追加学習を試す

3と4はクローズドモデルを使っている段階からでも進められます。むしろ社内データを整理し評価基準を作る作業は、どのモデルを使う場合でも成果を左右します。オープンモデルの性能がさらに上がったとき、すぐに乗り換えられる準備にもなります。

社内データをAIに渡す最初の設計については、以下の記事で解説しています。

ClaudeがSalesforceの商談データを読めるようになった|「AIに社内データを渡す」最初の一歩をどう設計するか

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オープンモデルがPC操作のようなエージェント用途にまで広がっている例は、以下の記事で解説しています。

Tencentとは?オープンモデルHy4がPC操作に対応|料金・Claude Opus 5.5との比較

Tencentとは?オープンモデルHy4がPC操作に対応|料金・Claude Opus 5.5との比較

注意点|オープンモデルを導入する前に確認すること

オープンモデルは自由度が高い分、確認すべきことも増えます。導入前に最低限見ておきたい点をまとめました。

  • ライセンス — 「オープン」でも条件はモデルごとに違う。Kimi K3のように独自ライセンスのものは、商用利用の範囲や表示義務を原文で確認する*3
  • 運用の負荷 — GPUの確保、推論基盤の構築、モデル更新への追従を誰が担うかを決める。外部の推論サービスを使う選択肢もある
  • 規制や政策の動き — 米国ではオープンウェイトモデルの扱いをめぐる議論があり、フアン氏が紹介した書簡もその文脈で出されたもの*2。利用するモデルの提供元や国の動向は追っておく
  • 性能の確かめ方 — ベンチマークの数字は参考程度にとどめ、自社の業務データで評価してから判断する
  • セキュリティ — 自社環境で動かすなら、モデルファイルの入手経路や推論サーバーへのアクセス管理も自社の責任になる

特に見落としやすいのが運用の負荷です。クローズドモデルなら提供元が性能改善や障害対応をしてくれますが、オープンモデルを自社で動かすとそれを自分たちで担います。いきなり大規模なモデルを自前で動かすより、小さなモデルや外部の推論サービスから始めるほうが失敗が少ないと私は考えています。

まとめ

  1. フアン氏の立場 — クローズドもオープンも両方必要で、価値は領域に特化した知能に宿るという考え方
  2. オープンの意味 — 重みの公開が基本で、データやレシピまで出すかやライセンス条件はモデルごとに違う
  3. 使い分け — 日常業務は最先端のクローズド、大量処理・機密・独自判断の業務はオープンの特化が向く
  4. 今やること — 業務の仕分けと社内データ・評価基準の整備は、どのモデルを使う場合でも先に進められる

私のおすすめは、まず全社で最先端のクローズドモデルを使い倒し、AIで何ができるかの感覚を社内にそろえることです。そのうえで「ここは自社にしか出せない答えがある」という業務を見つけ、データと評価基準を整えておく。オープンモデルが今のフロンティアに追いついたとき、その準備がある会社から自社の知能を持てるようになると思います。

参考資料

この記事の著者 / 編集者

チャエン

株式会社デジライズ 代表取締役

チャエン

法⼈向けのAI研修、及び企業向けChatGPTを開発する株式会社デジライズをはじめ、他数社の代表取締役。一般社団法人生成AI活用普及協会評議員を務めながら、GMO AI & Web3株式会社など他数社の顧問も兼任。NewsPicksプロピッカーも兼任。Twitterはフォロワー16万⼈。⽇本初AIツール検索サイト「AI Database」やAIとの英会話ができる「AI英会話」など複数のAIサービスも開発。ABEMAやTBSテレビなどメディア出演も多数。