2026年10月8日、Anthropicはオープンソースソフトウェア(OSS)の脆弱性を同社の最上位モデルで定期的に探す無料サービス「OSS Scanner」を公開しました*1。申し込んだプロジェクトには、Claude Mythosを含む最も高性能なモデルが見つけた脆弱性が、再現コードや修正パッチの候補とともにメールで届きます*1*3。
同社はこの半年で主要なOSSを調べ、2万9,000件を超える脆弱性の候補を見つけています*1。先に結論を言うと、重要なOSSを自社で保守している企業は申請を検討する価値があり、OSSを使う側の企業はこれから増える修正パッチを素早く取り込める体制づくりが先決です。
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目次
OSS Scannerとは|最上位モデルがOSSを定期スキャンする無料サービス
OSS Scannerは、重要なOSSの保守担当者が自分のプロジェクトを登録すると、Anthropicのモデルが定期的にコードを調べて脆弱性を報告してくれる仕組みです。Googleがファジング(大量の入力を自動で与えて不具合を探す手法)で続けてきた「OSS-Fuzz」を手本にしつつ、探す役をファジングツールから言語モデルに置き換えた点が特徴です*1。
費用はAnthropicが全額負担し、登録したプロジェクトは無料で使えます*3。一方でレポートはモデルが生成したものがそのまま届き、人によるレビューや仕分けは挟みません。同社自身も、内容が誤っていたり無効だったりする場合があると明記しています*1。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | OSS Scanner |
| 発表日 | 2026年10月8日 |
| 対象 | 社会基盤や利用者の安全に大きく影響する、既に広く使われているOSSの中心的な保守担当者 |
| 料金 | 無料(費用はAnthropicが負担) |
| 使うモデル | Anthropicの最上位モデル(Claude Mythosを含む) |
| スキャンの頻度 | 登録後に初回スキャン、その後は定期的に実施(頻度はパイプラインの負荷や利用の広さなどで変わる) |
| 届くもの | 再現コード・脆弱性の説明・修正パッチの候補(作れた場合) |
| 人によるレビュー | なし(モデルの出力をそのまま送る) |
| 申し込み方法 | GitHubの anthropics/oss-scanner に設定ファイルを追加するプルリクエストを出す |
OSS Scannerは単独の発表ではなく、防御側を支える長期の取り組み「Anthropic Cyber Mission」の一部として公開されました。同時に重要インフラの防御を支える「Critical Infrastructure Defense Program」も始まり、創設パートナーにはCrowdStrike、Palo Alto Networks、日立などが名を連ねています*2。
なぜ今AnthropicがOSSを守りにいくのか
背景にあるのはAIの脆弱性発見能力の急伸です。Anthropicによると、ベンチマーク「CyberGym」で言語モデルが見つけられる脆弱性の割合は、前年初めの20%未満から今年は85%超まで上がりました*1。見つける力が上がったぶん、攻撃者に先を越される前に守る側へ届ける仕組みが必要になったと見られます。
これまで同社は、Claudeで見つけた脆弱性の候補を人の手で仕分けてきました*1。その経験の出どころの1つがProject Glasswingです。このProject Glasswingは、防御目的の利用者に高度なサイバー能力を開放する「Cyber Verification Program」に統合されています*2。Project Glasswingのこれまでの動きは、以下の記事で解説しています。
Claude Mythosが15カ国以上に拡大へ——Project Glasswingの最新動向と日本企業への影響を解説
OSSは多くの企業システムの部品として使われていますが、保守しているのは少人数のボランティアや小さなチームであることも珍しくありません。高度な脆弱性診断を自前で受ける予算や人手がないプロジェクトほど、無料で最上位モデルの検査を受けられる意味は大きいと私は考えています。運営費をまかなう仕組みとして、8月に立ち上げた基金「Defender Advantage Fund」がOSS Scannerの無料提供を支えるとされています*2。
数字で見るOSS Scanner|2.9万件の候補と88%の的中率
今回の発表で私が一番注目したのは、事前検証の数字をかなり具体的に出している点です。モデル任せの自動レポートは誤報が多いのではと疑う方も多いと思いますが、Anthropicは専門家による検証結果を公開しています。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 過去6カ月で見つけた脆弱性の候補 | 2万9,000件超 |
| 人の手で確認・仕分けした件数 | 約6,000件 |
| 保守担当者の希望で直接送った件数(未検証を含む) | 約5,000件 |
| 専門家が検証した重大・高の件数 | 97件(48プロジェクト) |
| 開示の基準を満たした件数 | 85件(88%) |
| 実在したが既知や他の結果と重複した件数 | 11件 |
| 誤検知 | 1件 |
上の数字はすべて同社の発表によるものです*1。97件のうち開示基準に届かなかった12件も、11件は実在する脆弱性の重複で、本当の誤検知は1件だけでした。Anthropicは今後のレポートについて真陽性率90%超を見込んでいるとしています*2。
ただし、これは第三者機関の評価ではなくAnthropic自身の検証です。また対象は重大・高に限られており、低い深刻度の報告まで同じ精度とは限りません。同社も、深刻度が実際より高く付く場合や、プロジェクトの脅威モデル(何を攻撃とみなすかの前提)を読み違える場合があると認めています*1。
先行して使った保守担当者の声
- wolfSSL — 受け取った74件のうち有効でなかったのは2件だけで、5件がCVE(公開された脆弱性の識別番号)として登録された*1
- OpenSSL — 実際に動く攻撃コードが添付されていれば技術者がすぐに確かめられ、人が書いた報告と同等以上のこともある、と評価*1
- PostgreSQL — 先行利用のおかげで、最新の問題を正式リリース前に直せた
- curl — 対処すべき問題を複数見つける助けになった
暗号ライブラリやデータベース、通信ツールなど、多くの企業システムの土台にあるOSSが名前を連ねている点は見逃せません。ここで直った脆弱性は、それらを組み込んでいる企業の製品や社内システムにも順次届くことになります。
申請方法|対象・手順・届くレポートの中身
申請できるプロジェクト
対象の決め方はOSS-Fuzzに近く、外部からの攻撃にさらされやすいか(信頼できない入力を処理するライブラリなど)と、利用者や依存しているプロジェクトの多さで判断されます。作ったばかりのプロジェクトや多くのフォークは対象になりにくく、判断は個別に行われます*3。
もう一つの条件が、届いた報告を処理できる体制です。同社はこのサービスを、重大・高の検証済み報告に既に対応できているプロジェクト向けと位置づけています*3。人手が足りないプロジェクトには、従来どおり人が確認した報告を協調開示の手順で届けるとしています*1。
申し込みの手順
- GitHubの
anthropics/oss-scannerリポジトリに、projects/<project>/project.yamlを追加するプルリクエストを用意する - 必須項目の
repo(gitのURL)・primary_contact(連絡先)・Dockerfileを書く。Dockerfileは project.yaml の隣に置いてもよい - 必要に応じて
threat_model(脅威モデル)・auto_ccs(CC先)・pgp(暗号化用の鍵)などを足す tools/validate.pyで設定を確かめてからプルリクエストを出す
リポジトリはGitHubで公開されている必要はなく、gitのURLであれば指定できます*3。私は任意項目の threat_model をきちんと書くことをおすすめします。モデルが脅威モデルを読み違えると深刻度が過大になりやすいので、前提を先に渡しておくほうが届く報告の質は上がると見られます。
スキャンの流れと届くレポート
Dockerfileのビルドだけはネットワークにつながった状態で行い、その後のスキャンはインターネットを完全に遮断した隔離環境で進みます*3。結果は連絡先にメールでまとめて届き、PGP鍵を登録すれば暗号化されます(その場合はCCを付けられません)*3。
- 再現コード — それ単体で脆弱性を再現できるコード
- 説明 — 脆弱性の中身と、可能な場合はどの変更で入り込んだかの特定(バイセクト)*1
- 修正パッチの候補 — 作れた場合に添付
受け取りを止めたいときは設定ファイルに disabled: true を足せば一時停止でき、プロジェクトのフォルダを消せば登録自体を外せます*3。
届いたレポートを確認する手順
人のレビューを挟まない以上、受け取った側で真偽を確かめる工程が欠かせません。私なら次の順番で処理します。再現コードが付いている分、従来の外部報告より確認にかかる時間はかなり短くなるはずです。
- 再現 — 添付の再現コードを隔離した環境で動かし、本当に問題が起きるかを確かめる
- 深刻度の見直し — 自分たちの脅威モデルに照らして、付いている深刻度が妥当かを判断する
- 重複の確認 — 既知の不具合や過去の報告と同じものでないかを調べる
- パッチの検証 — 候補のパッチをそのまま取り込まず、テストとコードレビューを通してから使う
- 公開の準備 — 重大なものはCVEの採番や利用者への告知まで含めて計画する
特に修正パッチの候補は便利な反面、別の不具合を生む可能性もゼロではありません。AIが書いたコードは人が書いたコードと同じ基準でレビューする、という原則はここでも変わりません。
OSSに限らず、自社のシステムにこうしたAIの検査を組み込みたい方も多いと思います。法人向けAI研修の導入社数No.1*の弊社デジライズが、AIコンサルティング&開発のサービス資料を無料でお送りしています。既製のAIサービスでは要件が満たせず、自社に合わせたシステム構築や環境の検討が必要な場合の進め方をまとめています。
※出典:株式会社東京商工リサーチ「法人向けリスキリングサービスに関する調査」(2026年5月/調査期間:2026年3月26日〜4月17日/調査方法:デスクリサーチおよびヒアリング/2026年3月末時点)
Claude Securityとの違い|OSS向けと自社コード向けの使い分け
Anthropicのセキュリティ関連の取り組みは名前が似ていて混同しやすいので、今回の発表で触れられたものを整理します。ポイントは、OSS Scannerが「公開されている重要なOSS」を守るための無料サービスで、企業が自社のコードを調べる道具ではないことです。
| 名称 | 誰のためか | 内容 |
|---|---|---|
| OSS Scanner | 重要なOSSの保守担当者 | 最上位モデルによる定期スキャンを無料で提供 |
| Claude Security | 自社のコードを守りたい企業 | 企業が自らのリポジトリの脆弱性を見つけて直すための製品 |
| Claude for Open Source | OSSの保守担当者 | 脆弱性の修正やOSSの改善のためにClaude Max 20xを無料で提供 |
| Cyber Verification Program | 防御に携わるセキュリティの専門家 | 高度なサイバー能力を、防御目的の確認を経て開放 |
表のうちClaude for Open SourceとCyber Verification Programの内容は今回の発表にもとづきます*1。社内の非公開コードを調べたい場合はClaude Securityの領域です。Claude Securityの仕組みや最上位モデルでの使い方は、以下の記事で解説しています。
Claude Securityで最上位モデル「Mythos 5」が使える|脆弱性スキャンの新常識
Claude Security公開─Opus 4.7がコードの脆弱性を自動発見・パッチ生成
使い分けを一言でまとめると、OSS Scannerは社会全体で共有している部品を守る取り組み、Claude Securityは自社の持ち物を守る製品です。前者で直った成果は使う側の企業すべてに及ぶので、OSSを使う企業にとっても間接的な恩恵があります。自社のコードまで同じ水準で守りたいなら、後者を含めた検討が必要になります。
企業での使いどころ|申請すべき会社と備えるべき会社
日本企業の多くは「OSSを作る側」ではなく「使う側」です。それでも今回の動きは無関係ではありません。立場ごとにやるべきことを分けて考えるのが近道です。
自社でOSSを公開・保守している企業
広く使われているライブラリやツールを公開しているなら、申請を検討する価値があります。無料で最上位モデルの検査を受けられ、再現コードとパッチ候補まで付いてくるので、少人数のチームでも調査の手間を大きく減らせます。
- 窓口の決定 —
primary_contactに個人ではなくチームで受けられる宛先を用意する - 受け止める体制 — 重大・高の報告が届いたときに誰がいつまでに確認するかを先に決める
- 脅威モデルの文書化 — 何を攻撃とみなすかを書いておき、深刻度の読み違いを減らす
OSSを使っている企業
こちらが大多数の企業です。主要なOSSで見つかる脆弱性が増えれば、修正版のリリースも増えると見られます。直った脆弱性は修正版を取り込んで初めて自社のリスクが下がるので、更新が遅れる会社ほど危うくなります。
- 利用OSSの棚卸し — 自社製品や社内システムが、どのOSSのどの版を使っているかを一覧にする(SBOMの整備)
- 更新の仕組み化 — 依存関係の更新を手作業ではなく定期的な作業に組み込む
- 脆弱性情報の監視 — 主要なOSSのセキュリティ告知とCVEを追い、重大なものは優先して当てる
社内の非公開コードを守りたい企業
自社開発の業務システムや顧客向けサービスはOSS Scannerの対象外です。こちらはClaude Securityなどの企業向け製品や、社内の開発工程へのAIレビューの組み込みで対応することになります。OSSで実績を積んだ手法が企業向け製品にも生かされていく流れは、今後も続くと見られます。
立場ごとのやることを一覧にすると次の通りです。社内で議論するときのたたき台に使ってください。
| 立場 | まずやること | 担当の目安 |
|---|---|---|
| 重要なOSSを保守している | 窓口と対応手順を決めて申請を検討する | 開発チームの責任者 |
| OSSを組み込んだ製品を売っている | 利用OSSの一覧化と修正版の取り込み手順を整える | 製品開発・品質保証 |
| 社内システムでOSSを使っている | 依存関係の定期更新と脆弱性情報の監視を回す | 情報システム部門 |
| 自社開発のコードが多い | Claude Securityなど企業向けの検査手段を比較する | セキュリティ担当 |
注意点|無審査レポート・開示ルール・運用負荷
無料で強力なサービスですが、申請する前に知っておきたい点がいくつかあります。特に開示のルールは、社内の法務やセキュリティ担当とも共有しておくべき内容です。
- 人のレビューがない — レポートはモデルの出力そのままで、誤りや深刻度の過大評価が混じる前提で確認する*1
- 開示のルール — 未検証の報告に90日の開示期限は付かないが、後から人が検証した報告は、その通知から90日後に公開される場合がある*3
- 今後の変更 — 一部の重大な報告には将来開示期限を設ける可能性があり、その際は事前通知と除外の選択肢を用意するとしている*3
- 運用の負荷 — 報告を処理できる体制が前提で、受けきれないなら登録しない判断もあり得る
- 対象は選考制 — 申し込めば必ず使えるわけではなく、個別に判断される
もう一つ忘れてはいけないのが、同じ能力は攻撃する側にも渡り得るという点です。守る側が先に見つけて直す仕組みを広げることが、今回の発表の本当の狙いだと私は見ています。AIによるサイバー攻撃の現状と企業の対策は、以下の記事で解説しています。
AIサイバー攻撃の現実——Claude Mythosが証明した脅威と、企業が今すべき対策
AIがコードの脆弱性を見つけて直す流れはAnthropicだけのものではありません。Google DeepMindの「CodeMender」との比較も含めて、以下の記事で解説しています。
【AI専門家が徹底解説】DeepMind「CodeMender」とは? コード脆弱性を自動修正するAIが示す新しいセキュリティの形
まとめ
- サービスの中身 — OSS Scannerは重要なOSSの保守担当者向けに、Mythosを含む最上位モデルの定期スキャンを無料で提供する
- 精度の目安 — 重大・高の97件のうち85件(88%)が開示基準を満たし、誤検知は1件だった(同社の検証)
- 申請の条件 — 選考制で、届いた報告を処理できる体制と、GitHubへの設定ファイルの提出が必要になる
- 使う側の備え — OSSを使う企業は、増える修正版を素早く取り込む棚卸しと更新の仕組みを整える
私のおすすめは、自社で広く使われるOSSを保守しているなら、まず報告の受け皿を決めたうえで申請することです。OSSを使う側の企業は、利用しているOSSの一覧づくりと依存関係の定期更新から始めてください。AIが脆弱性を見つける速さに、直す側の更新の速さを合わせられるかが、これからの企業のセキュリティの差になると私は考えています。

