チャエン

株式会社DigiRise 代表取締役

チャエン

近年、ChatGPTなどの生成AIの登場・普及が世界的に話題となっているように、AIは人々の暮らしや仕事をより便利に・効率的にするツールとして大きな注目を集めています。

企業のさまざまな部門で、業務効率化や顧客体験の向上、意思決定の精度向上など、多くの用途でAIが活用されています。

「自社でもAIを活用したいけれど、何から始めればいいのかわからない」「具体的にどんな効果があるのか知りたい」そんなお悩みはありませんか?

デジライズでは、AI活用を検討している企業の皆様に向けて、AI活用事例や導入のポイントをわかりやすくご紹介します。

ご興味のある方は以下のリンクから、お問い合わせいただけます。

1. はじめに – AIコーディングエージェントの新時代

ソフトウェア開発の世界で新たな革命が起きています。「AIコーディングエージェント」と呼ばれる新世代のツールが次々と登場し、開発者の生産性を劇的に向上させる可能性を示しています。特に2025年に入って、この動きは加速の一途をたどっています。

Cognition LabsによるDevinの衝撃的な発表、Microsoft GitHubのCopilotの進化、そしてOpenAIのCodex登場と、AIエージェントの開発競争はますます激化しています。そして2025年5月、GoogleがI/Oカンファレンスにおいて自社のAIコーディングエージェント「Jules」をベータ版として全世界に公開することを発表しました。

この記事では、Googleの新しいAIエージェント「Jules」の詳細、主要な競合サービスとの比較、そして実際の活用方法について詳しく解説します。AIコーディング時代の波に乗り遅れないために、ぜひ最後までお読みください。

2. Google「Jules」とは?機能と特徴の徹底解説

Jules インターフェース
Google Julesのインターフェース(出典: Google Blog

Julesは、Googleが開発した非同期型(アシンクロナス)AIコーディングエージェントです。2024年12月にGoogle Labsの実験的プロジェクトとして限定公開されていましたが、2025年5月20日のGoogle I/Oカンファレンスにおいて、ベータ版として全世界に向けて一般公開されました。

Julesの基本コンセプト

Julesの最大の特徴は、単なるコード補完やコパイロットではなく、完全に自律型のエージェントとして機能することです。プロンプトに基づいてタスクを理解し、コードベースを分析して、実際に作業を行います。Googleのブログでは、これを「コパイロットでもなく、コード補完の相棒でもなく、あなたのコードを読み、意図を理解し、作業に取り組む自律型エージェント」と表現しています。

Julesの主要機能

Julesの主な機能は以下の通りです:

  1. リポジトリ全体の理解: GitHubリポジトリと直接連携し、プロジェクト全体のコンテキストを理解します
  2. 非同期処理: タスクがクラウド上の仮想マシンで実行され、ユーザーはその間他の作業に集中できます
  3. 多様なタスク処理:
  • テスト作成
  • 新機能の実装
  • オーディオ形式のチェンジログ生成
  • バグ修正
  • 依存関係のバージョンアップ
  1. GitHub連携: 既存のワークフローにシームレスに統合され、特別なセットアップは不要です
  2. ユーザー制御: 実行前、実行中、実行後に計画を修正でき、コードに対する制御を維持できます
  3. セキュリティ: プライベートなコードでモデルをトレーニングすることはなく、データは実行環境内に分離されます

Jules Avatar

技術的基盤

Julesは、Googleの最新のAIモデル「Gemini 2.5 Pro」を基盤としています。このモデルは、複雑なコーディング推論能力を備え、クラウドVM(仮想マシン)システムと組み合わせることで、複雑なマルチファイル変更や並行タスクを迅速かつ正確に処理できます。

ZDNETの記事によれば、Gemini 2.5 ProはOpenAIのo3-miniやAnthropicのClaude 3.7 Sonnetなどの業界をリードする他のモデルを、数学やコード編集などの重要なベンチマークでスコア上回っているとされています。

3. 主要AIエージェントの比較

DevinとJules – 自律型エージェントの対決

Devinは、Cognition Labsが2025年初頭に発表した「世界初の完全自律型AIソフトウェアエンジニア」として大きな注目を集めました。JulesとDevinは、どちらも自律型のAIコーディングエージェントという点で共通していますが、いくつかの重要な違いがあります:

特徴Google JulesDevin
基盤モデルGemini 2.5 Pro独自モデル
実行環境Google Cloud VM独自環境
価格ベータ期間中無料、後に有料化予定月額$500(企業向け)
処理方式非同期(バックグラウンド処理)対話型と非同期の両方
GitHub連携直接統合直接統合
利用制限1日5タスク(ベータ期間中)プランによる

JulesはDevinと比較して、現時点では無料で利用できる点と、Google Cloudの強力なインフラを活用している点が大きな魅力です。一方、Devinは早期から商用サービスとして展開されており、より幅広い機能とカスタマイズ性を提供している可能性があります。

OpenAI Codexの登場と位置づけ

OpenAIは2025年5月にCodexを発表し、AIコーディングエージェント市場に本格参入しました。Codexは「codex-1」という、ソフトウェアエンジニアリング向けに最適化されたOpenAI o3モデルをベースにしています。

OpenAI Codex Citations
OpenAI Codexの引用機能(出典: OpenAI

JulesとOpenAI Codexの主な違い:

特徴Google JulesOpenAI Codex
基盤モデルGemini 2.5 Procodex-1 (o3ベース)
アクセス全ユーザー(ベータ期間中)ChatGPT Pro/Team/Enterprise(順次拡大予定)
インタフェースウェブUI & GitHubChatGPTとCLI
実行方式非同期のみChatGPTでは非同期、CLIでは対話型
ローカル連携GitHub経由ターミナル(CLI)で直接実行可能

OpenAI Codexの特徴的な部分として、CLIバージョンが提供されている点が挙げられます。これにより、開発者は自分のターミナル内でローカル環境とより密接に連携できる可能性があります。一方、JulesはGitHub連携に重点を置き、クラウドベースの非同期処理を前面に押し出しています。

Cursorの特徴とJulesとの違い

Cursorは、AIを搭載したコードエディタとして人気を集めています。Visual Studio Codeをベースにしながら、AIアシスタント機能を強化した製品です。JulesとCursorは根本的に異なるアプローチをとっています:

特徴Google JulesCursor
製品タイプクラウドベースのエージェントAIを統合したコードエディタ
実行環境リモート(Google Cloud VM)ローカル + クラウドAI
操作方法タスク指示と結果レビューリアルタイムの対話型編集
主な強み複雑タスクの自律処理コーディング中のリアルタイムサポート
対象ユーザープロジェクト管理者、チーム個人開発者、リアルタイム開発

Cursorはリアルタイムのコード提案と補完に優れており、開発者がコードを書いている最中に瞬時にサポートを提供します。一方、Julesはより大きなタスクを自律的に処理することに特化しており、開発者が他の作業に集中している間にバックグラウンドでコーディングタスクを完了させることができます。

4. Julesの使い方ガイド

セットアップ方法

Julesのセットアップ
開発環境のセットアップ(出典: Google Blog

Julesのセットアップは非常に簡単です。以下の手順に従うだけです:

  1. jules.google にアクセス
  2. GitHubアカウントと連携
  3. 作業対象のリポジトリとブランチを選択
  4. タスクの詳細を説明するプロンプトを入力

GitHubとの連携が完了すると、すぐにJulesを使い始めることができます。将来的には、GitHubのイシューに「assign-to-jules」ラベルを付けることで、直接タスクを割り当てる機能も実装される予定です。

実際の開発フロー

Julesを使った典型的な開発フローは以下のようになります:

  1. タスクの割り当て: リポジトリとブランチを選択し、Julesに実行してほしいタスクの詳細を説明します
  2. 計画の確認: Julesはリポジトリをクローンして分析し、Gemini 2.5 Proを活用してタスク実行計画を作成します。ユーザーはこの計画を確認し、必要に応じて調整できます
  3. コード変更の確認: Julesは変更内容の差分(diff)を提示します。ユーザーはこれを簡単に確認し、変更を承認できます
  4. PRの作成: 承認後、JulesはPull Requestを作成し、ブランチにマージしてGitHubに公開することができます
  5. オーディオサマリー: 変更内容のオーディオサマリーも生成され、短時間で変更点を把握することができます

この一連のプロセスにより、開発者は単調で時間のかかるタスクをJulesに委任し、より創造的な仕事や重要な意思決定に集中できるようになります。

利用制限と今後の料金体系

現在、Julesはベータ期間中であり、無料で利用できます。ただし、以下の制限が設けられています:

  • 同時実行タスク: 最大3タスク
  • 1日あたりのタスク数: 最大5タスク
  • 1日あたりのコードキャスト(オーディオサマリー): 最大5回

これらの制限を超えると、Julesは新しいタスク作成を防止し、制限が解除されるまで待つ必要があります。

Google公式ドキュメントによれば、ベータ期間終了後には有料化が予定されていますが、具体的な料金体系はまだ発表されていません。「製品が成熟するにつれて詳細を共有する」としています。

大規模チームや日常的な開発フローでJulesを活用している場合は、制限の引き上げをリクエストすることも可能です。Googleが提供する専用フォームから申請でき、Julesの使用方法、サポートするリポジトリやワークフロー、理想的なタスク量などの情報を共有することで、制限緩和の検討対象となります。

5. AIエージェントが変える開発の未来

生産性への影響

AIコーディングエージェントの登場は、開発者の生産性に劇的な変化をもたらしています。特に自律型エージェントであるJulesは、次のような形で生産性向上に貢献します:

  • 並行タスク処理: 開発者が重要な機能に取り組んでいる間に、バックグラウンドでテスト作成やバグ修正などのタスクを処理
  • コンテキスト切り替えの最小化: 複数の問題に同時に対処する必要がなくなり、開発者は集中力を維持できる
  • 反復的作業の自動化: ボイラープレートコードの作成やリファクタリングなど、創造性をあまり必要としないタスクを自動化

Googleのブログでは、OpenAIの技術チームが既にCodexを日常的なツールキットの一部として使用し始めていることが報告されています。主に反復的で範囲が明確なタスク(リファクタリング、リネーム、テスト作成など)を委任することで、集中力を切らさずに済んでいるとのことです。

開発ワークフローの変化

AIエージェントの普及により、従来の開発ワークフローが大きく変わりつつあります:

  1. タスク分割の変化: 「人間が担当するタスク」と「AIに委任するタスク」という新しい分類が生まれています
  2. チーム構成の再考: 少人数チームでもより大規模なプロジェクトに取り組めるようになり、チーム構成が変化
  3. 非同期コラボレーション: リアルタイムのペアプログラミングから、AIエージェントとの非同期コラボレーションへのシフト
  4. コードレビュープロセス: AIが生成したコードの審査と、人間が書いたコードの審査という二層構造の出現

Google I/O 2025
Google I/O 2025 – Julesが発表されたイベント(出典: Google Blog

GoogleのKathy Koravec氏(Google Labsのプロダクト管理ディレクター)は、「私たちは転換点にいます:エージェント型開発はプロトタイプから製品へとシフトし、ソフトウェア開発の中心的存在になりつつあります」と述べています。これは、AIエージェントが単なる補助ツールから、開発プロセスの不可欠な部分へと進化していることを示しています。

開発者スキルへの影響

AIエージェントが普及することで、開発者に求められるスキルセットも変化します:

  • プロンプトエンジニアリング: AIに効果的に指示を出すためのスキルがますます重要に
  • システム設計とアーキテクチャ: 低レベルのコーディングよりも、高レベルの設計能力が差別化要因に
  • AIの成果物を評価する能力: AIが生成したコードの品質と安全性を正確に評価するスキルの重要性が増加
  • AIとの効果的な協業方法: AIツールを最大限に活用するための新しいワークフローやプラクティスの開発

このような変化に伴い、教育機関やトレーニングプログラムも、AIと共存する開発者を育成するためのカリキュラムを見直す必要が出てくるでしょう。

6. まとめ – あなたの開発環境に最適なAIエージェントは?

GoogleのJules、OpenAIのCodex、DevinなどのAIコーディングエージェントの登場により、ソフトウェア開発の世界は急速に変化しています。これらのツールは単なる生産性向上だけでなく、開発の方法論そのものを根本から変える可能性を秘めています。

各AIエージェントの特性を考慮すると、以下のような使い分けが考えられます:

  • Jules: クラウドベースの非同期処理に適しており、GitHubと連携した大規模プロジェクトでの活用が理想的
  • OpenAI Codex: ChatGPTユーザーでありながら、ターミナルでの作業も好む開発者に適合
  • Cursor: リアルタイムでのコーディング支援を求める個人開発者向け
  • Devin: 企業レベルでの高度なカスタマイズと自律性を必要とするチーム向け

現時点でJulesは無料でベータテスト中であり、アクセスハードルが最も低いツールと言えます。新しいAIエージェントの可能性を探るには最適な入口かもしれません。

重要なのは、これらのツールを単なる「コード生成器」としてではなく、創造的なプロセスを拡張するパートナーとして捉えることです。AIエージェントに単調な作業を委託することで、開発者はより複雑で創造的な問題解決に集中できるようになります。

AIコーディングエージェントの進化は始まったばかりです。今後数年でさらなる革新が期待される中、開発者はこれらのツールを積極的に試し、自分のワークフローに最適な活用方法を見つけていくことが重要でしょう。

この記事の著者 / 編集者

チャエン

株式会社DigiRise 代表取締役

チャエン

法⼈向けのAI研修、及び企業向けChatGPTを開発する株式会社デジライズをはじめ、他数社の代表取締役。一般社団法人生成AI活用普及協会評議員を務めながら、GMO AI & Web3株式会社など他数社の顧問も兼任。NewsPicksプロピッカーも兼任。Twitterはフォロワー16万⼈。⽇本初AIツール検索サイト「AI Database」やAIとの英会話ができる「AI英会話」など複数のAIサービスも開発。ABEMAやTBSテレビなどメディア出演も多数。

関連記事