
昨今、AIがコードを書き、私たちの開発をサポートするということが現実のものとなりました。しかし、本日ご紹介するDeepMindの発表は、その一歩先を行くものです。2025年10月6日に発表された「CodeMender」は、AIが自らコードの脆弱性を見つけ、修正し、そしてオープンソースプロジェクトにまで貢献するという、まさに「AIがコードを守る」時代の到来を告げる画期的なエージェントです。
この記事を読まれている皆さまは、日々ソフトウェアのセキュリティ維持に頭を悩ませていることでしょう。「CodeMender」は、そんな皆さまの課題に対する一つの答えを示しています。
本記事では、AI導入支援の最前線にいる私の視点から、CodeMenderの衝撃的な機能から、Claude CodeやCodexといった他のAIツールとの違い、そして皆さまの企業がこの「AIによる自動修正」のアプローチをどう自社に活かしていくべきかまで、徹底的に掘り下げて解説します。
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目次
CodeMenderとは? DeepMindが発表した“自動修正AI”の概要
まずは、今回発表された「CodeMender」が一体何者なのか、その核心に迫っていきましょう。CodeMenderは、一言で言えば、AIを搭載しコードのセキュリティを自動的に向上させるエージェントです。単にバグを見つけるだけでなく、それを自ら修正し、ソフトウェア全体の安全性を高めることを目的としています。
CodeMenderの目的と背景
ソフトウェアの脆弱性は、開発者にとって発見と修正が非常に困難で時間のかかる作業です。DeepMindはこれまでも「OSS-Fuzz」などの取り組みで、AIが未知の脆弱性(ゼロデイ脆弱性)を発見できる能力を証明してきました。しかし、AIによる脆弱性の「発見」が加速するほど、今度は人間による「修正」が追いつかなくなるという新たな課題が生まれます。
CodeMenderは、この課題を解決するために生まれました。目的は明確で、オープンソースソフトウェア(OSS)の脆弱性をAIが自動で修正し、ソフトウェアエコシステム全体を安全にすることです。これは、開発を書く(創造)ことに加えて守る(維持・保守)ことまでAIが代替しつつあることを象徴しています。
CodeMenderがどれほど強力か、その実績が物語っています。
- Gemini Deep Thinkによる高度なコード理解:最新のGeminiモデルが持つ思考能力を活用し、複雑な脆弱性の根本原因をデバッグ・修正します。
- LLM judgeによる機能同等性評価:修正が新たなバグ(リグレッション)を生んでいないか、LLMベースの判定ツールが厳しくチェックします。
- 驚異的な実績:開発が始まってからのわずか6か月で、すでに72件のセキュリティ修正を実際のOSSプロジェクトに提供し、その多くが受け入れられています。
どんな仕組みで動いているのか
では、CodeMenderは具体的にどのようなプロセスで脆弱性を修正しているのでしょうか。その動きは、「検出→修正→検証→上流反映」という4つのステップからなる自動ループで構成されています。AIが自律的にこのサイクルを回すことで、開発者の手を煩わせることなくセキュリティを向上させるのです。
この4ステップにおけるAIの役割を、以下の表にまとめてみました。
フェーズ | 内容 | AIの役割 |
---|---|---|
検出 | 脆弱性の特定と根本原因の分析 | 静的・動的解析、ファジングなどの高度なプログラム分析ツールを駆使し、コードのパターンやデータフローを精査して弱点を特定します。 |
修正 | 修正パッチ(コード案)の生成 | Gemini Deep Thinkモデルが、デバッガやソースコードブラウザからの情報を元に、脆弱性の根本原因を解決するための最適な修正案を生成します。 |
検証 | 修正案の品質チェックと回帰テスト | LLM judgeツールやマルチエージェントシステムが、修正が機能的に正しいか、新たなバグを生まないか、コーディング規約に沿っているかを自動で検証・自己修正します。 |
上流反映 | OSSプロジェクトへのプルリクエスト提出 | 品質が担保された修正案のみを人間が最終レビューし、OSSプロジェクトに提案します。将来的にはこのプロセスも自動化される可能性があります。 |
このように、CodeMenderは複数の専門家AIエージェントが連携するマルチエージェントシステムとして機能し、人間だけでは困難な速度と精度でセキュリティ維持を実現しているのです。
他のAI開発支援ツールとの違い
「AIがコードを扱うツール」と聞いて、Anthropicの「Claude Code」やOpenAIの「Codex」を思い浮かべた方も多いでしょう。しかし、CodeMenderはこれらのツールとは明確な違いがあります。また、従来のセキュリティツールとも一線を画す存在です。
Claude Code・Codexとの違い
一言で言うなら、Claude CodeやCodexは「開発者支援(攻めのAI)」であり、CodeMenderは「セキュリティ維持(守りのAI)」です。前者は開発者の生産性を高めるためにコードを「生成」したり「改善」したりするのに対し、後者はコードの「脆弱性」を自動で「修正」することに特化しています。
この違いを比較表で見てみましょう。
項目 | Claude Code/Codex | CodeMender |
---|---|---|
主目的 | コード生成・改善、リファクタリング、機能実装の高速化 | ソフトウェアの脆弱性の自動検出・修正・再発防止 |
範囲 | 開発者の指示に基づくコード編集やPR作成支援 | 脆弱性の検出から修正、検証、OSSへの統合提案までを自律的に実行 |
検証 | 開発者が用意したテストの実行や、人間による判断が中心 | LLM judgeとGemini Deep Thinkによる自動検証・自己修正プロセスを内蔵 |
主ユーザー | 日々の開発業務を行うソフトウェア開発者 | ソフトウェアの安全性を担保するセキュリティ部門や開発部門 |
従来のセキュリティ用ツールとの違い
次に、SAST(静的アプリケーションセキュリティテスト)やDAST(動的アプリケーションセキュリティテスト)といった、従来のセキュリティツールとの違いを見てみましょう。最大の違いは、従来ツールが「脆弱性の検出」までだったのに対し、CodeMenderは「修正・検証・上流反映」までを自動で行う点です。
こちらも比較表で整理しました。
項目 | 従来ツール (SAST/DAST) | CodeMender |
---|---|---|
主機能 | コードをスキャンし、潜在的な脆弱性をリストアップする「検出」が中心 | 検出に加えて、具体的な修正案の生成、検証、さらにはOSSへの反映までを自動化 |
方式 | 事前に定義されたルールやパターンに基づく解析が主流 | LLMとGemini Deep Thinkによる文脈を理解した高度なプログラム分析 |
修正責任 | ツールが検出した問題を人間が解釈し、手動で修正 | AIが修正案を提案し、人間はそれを承認・監督する |
運用範囲 | 主に社内のコードベースを対象としたクローズドな運用 | オープンソースエコシステムと連携し、上流への貢献まで視野に入れる |
CodeMenderは、単なる「警告ツール」ではなく、セキュリティチームの一員として自律的に動き、修正まで完結させてくれる「AIセキュリティエンジニア」と呼ぶべき存在なのです。
実際に修正した事例とそのインパクト
CodeMenderはまだ研究段階ですが、すでに目覚ましい成果を上げています。特に象徴的なのが、広く使われている画像圧縮ライブラリ「libwebp」の脆弱性への対応です。
libwebpの脆弱性修正(CVE-2023-4863文脈)
数年前、libwebp
に存在したヒープバッファオーバーフローの脆弱性(CVE-2023-4863)は、多くのシステムに影響を与える深刻な問題として知られています。攻撃者がこの脆弱性を悪用すると、任意のコードを実行できてしまう可能性がありました。
CodeMenderは、このような脆弱性に対して-fbounds-safety
というコンパイラ機能をコードに適用するアプローチを取りました。これは、プログラムのメモリ範囲をコンパイラに厳密にチェックさせることで、バッファオーバーフローのような攻撃を根本的に無効化する手法です。
このアプローチのインパクトは絶大です。
- 再発防止の構造化:単なる対症療法ではなく、コードの構造自体を安全なものに書き換える(リファクタリングする)ことで、同種の脆弱性が将来にわたって発生するのを防ぎます。
- 人手修正より高速・安全:広範囲にわたるコードの書き換えは、人間が行うとミスが発生しやすく、膨大な時間がかかります。CodeMenderは、この作業を高速かつ正確に自動実行し、さらにコンパイルエラーやテスト失敗が発生した場合は自己修正まで行います。
OSSへの上流統合
CodeMenderの真価は、その成果が机上の空論で終わらない点にあります。過去6か月間で、実際に72件ものセキュリティ修正を様々なオープンソースプロジェクトに提供し、その多くが既に受け入れられ、本流のコードに統合(アップストリーム)されています。
この実績を以下の表にまとめました。
指標 | 実績 |
---|---|
修正件数 | 72件 |
対応OSS | libwebp など、最大450万行に及ぶ大規模な重要OSSライブラリを含む |
これは、AIが単にコードを理解するだけでなく、コミュニティの一員としてソフトウェアの品質向上に直接貢献できることを証明した、歴史的な一歩と言えるでしょう。
CodeMender的アプローチを活かすには
さて、ここからはAI導入支援の専門家である私の視点で、このCodeMenderが示すアプローチを、皆さまの企業がどのように活かしていけるかについてお話しします。
AI導入時に直面する3つの壁
多くの企業がAI、特に生成AIを導入しようとする際に、共通の壁にぶつかります。それは以下の3つです。
- 技術選定の複雑さ:どのAIモデルを、どの業務に、どのように適用すれば良いのか判断が難しい。
- 人間によるレビュー体制の未整備:AIの生成物を誰が、どのようにチェックし、品質を担保するのかというワークフローが確立されていない。
- 改善サイクルの停滞:AIを導入して終わりではなく、その性能を継続的に評価し、改善していく仕組み(AIガバナンス)が回らない。
これらの壁は、AIを単なる「便利な道具」として捉えている限り、乗り越えるのは困難です。
CodeMenderが示す“現実的なAI運用モデル”
CodeMenderの運用モデルは、この壁を乗り越えるための素晴らしいヒントを与えてくれます。それは、「AIが提案し、人間が承認する」という二層構造のワークフローです。AIに全ての意思決定を委ねるのではなく、AIを優秀なアシスタントとして活用し、最終的な判断は人間が行う。この役割分担こそが、現実的なAI運用の鍵となります。
このモデルを理想的なワークフローとして表にまとめました。
フェーズ | 人間の役割 | AIの役割 |
---|---|---|
検出 | 潜在的リスクのビジネスインパクトを判断し、優先順位を決定する | 24時間365日、システムを自動スキャンし、異常や改善点を検知・報告する |
修正 | AIが生成した複数の改善提案の中から、最適なものを選択し最終承認する | 検出した問題に対し、複数の解決策(コード、文章、デザイン案など)を生成・提案する |
運用 | AIのパフォーマンスを監督し、倫理的・法的なガバナンスを設計する | 過去の承認・非承認データを元に継続的に学習し、提案の精度を更新していく |
企業が今からできること
「うちにはCodeMenderのような高度なAIはない」と思われるかもしれません。しかし、この「AI提案+人間承認」の考え方は、今すぐ皆さまの業務に取り入れることができます。
- 現行プロセスにAI提案フェーズを挿入する:例えば、コードレビューの前にChatGPTやClaudeにコードを読み込ませ、「潜在的なバグや改善点を指摘してください」と依頼するだけで、レビューの質は格段に上がります。
- AI監督者(レビュー責任者)を育成する:AIの提案を鵜呑みにせず、その妥当性を評価できる人材をチーム内に明確に配置・育成することが重要です。
- 改善ログを自動保存し再学習に活用する:どの提案が採用され、どれが却下されたのかを記録し、チームのナレッジとして蓄積することで、AIへの指示(プロンプト)の質も向上していきます。
- 導入支援・研修の活用:私たちのような専門家の支援を受け、自社に最適なAI活用のワークフローを設計し、社員のAIリテラシーを向上させることも有効な一手です。ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ:AIは“品質を守る味方”
今回は、DeepMindが発表した自動コード修正AI「CodeMender」について、その仕組みから他のツールとの違い、そして企業での応用方法までを詳しく解説しました。
CodeMenderが示す未来は、AIが人間の仕事を奪うのではなく、人間が最も集中すべき創造的な仕事に専念できるよう、品質と安全を支える強力なパートナーになるというものです。
ソフトウェアのセキュリティは、もはや一部の専門家だけが担うものではありません。CodeMenderのようなAIの力を借りて、開発プロセス全体をより安全で効率的なものに変えていく。そんな新しい時代のセキュリティ対策を、皆さまの組織でも検討してみてはいかがでしょうか。
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