
画像生成AIのMidjourneyが、医療画像向けのハードウェアに踏み出しました。「画像生成の会社がなぜスキャナを?」と私も思わず二度見しました。
2026年6月17日(米国時間)、Midjourneyは新部門「Midjourney Medical」を発表しました。柱は2つで、ひとつは超音波で全身を撮る独自スキャナ「Midjourney Scanner」、もうひとつはそのスキャナを10台並べてサウナやコールドプランジと組み合わせた「Midjourney Spa」構想です。サンフランシスコのUnion Squareに2027年末の開業を予定しているとされています。
ただし、ここは先に正しく押さえておきたいポイントです。発表自体は本物ですが、「60秒で全身スキャン」はMidjourney側が掲げる目標値であり、現時点で実証された性能ではありません。診断用途でのFDA承認も取得していません。話題性が大きい一方で、未確定の要素も多い領域です。
本記事では、公式発表・大手報道・Butterfly NetworkのSEC提出資料をもとに、「Midjourney Medicalとは何か」「何が確定情報で、どこからが未検証か」を整理します。
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※出典:株式会社東京商工リサーチ「法人向けリスキリングサービスに関する調査」(2026年5月/調査期間:2026年3月26日〜4月17日/調査方法:デスクリサーチおよびヒアリング/2026年3月末時点)
目次
Midjourney Medicalとは——画像生成AIが医療画像ハードへ参入

Midjourney Medicalは、画像生成AIのMidjourneyが立ち上げた医療画像向けハードウェアの新部門です。CEOのDavid Holz氏は公式ブログで、Midjourney Medicalを「過去50年で初めての新しい全身医療画像モダリティ」と位置づけたと説明していますが、これはあくまでMidjourney側の主張で、第三者の評価で裏付けられたものではない点に注意が必要です。
今回の本丸は、AIによる画像処理ではなく、撮影装置そのものを自前で開発するところにあります。ハードウェア部門のリーダーはAhmad Abbas氏で、Apple Vision Proのハードウェアエンジニアリングマネージャーを5年務めた人物だとArs Technicaは伝えています。AI画像生成で得た収益を、外部投資家を入れずに自己資金で医療画像ハードに投じる、という構造もユニークです。
発表されたのは「Midjourney Scanner」「Midjourney Spa」の2つの製品コンセプトと、それを束ねる新部門の存在です。スキャナの本格的な臨床利用やSpaの開業はいずれもまだ未来の話で、現時点はあくまで「構想と初期プロトタイプの公開」というフェーズだと理解しておきましょう。
Midjourney Scannerとは——Butterfly Network製チップ40個で全身を撮る超音波CT

Midjourney Scannerは、X線でもMRIでもなく、超音波で全身を一度に撮りに行く装置です。水で満たした筒に体を沈め、まわりに並んだ超音波チップで全身を撮像する「Ultrasonic CT」と呼ばれる方式です。
報じられている技術仕様を整理するとこうなります。
- 方式:超音波CT(Midjourneyは「Ultrasonic CT」と呼称)
- センサ:Butterfly Networkのultrasound-on-chipモジュールを1システムあたり40個搭載(The Verge報道)
- 総センサ数:約50万素子規模(Midjourney公式ブログ/Butterfly Networkの説明に基づく)
- 処理能力:2ペタフロップス超
- 構造:被験者が水浸式(water-immersion)プラットフォームに沈む形
Butterfly Networkは超音波チップを単一CMOSデバイス化したことで知られる米企業です。Butterflyが2025年11月17日に米国SECに提出したForm 8-Kでは、Midjourneyとの「Embedded co-development program」を通じた契約として、5年間で最大7,400万ドルの期待支払総額が開示されています(一時金1,500万ドル+年間ライセンス料1,000万ドル+最大900万ドルのマイルストーン支払い等の内訳)。あくまで「期待支払総額」で確定収益ではない点には注意が必要ですが、供給元側のIR資料に金額が出ていること自体が、開発の本気度を示す材料です。
「MRIに匹敵する画質をMRIの約100倍の速度で取得できる」という主張も公式ブログで紹介されていますが、ここはあくまでMidjourney側のクレームです。The Vergeはこの主張を裏づける公開データは乏しいと専門家取材で指摘しており、第三者の比較データや査読付き論文の確認は現時点では取れていません。臨床医・放射線科医からの本格的な評価が出てくるのは、もう少し先になりそうです。
「60秒で全身スキャン」は実現済みか——現状は目標値として見るべき理由

ここがいちばん正確に押さえておきたいポイントです。
各種報道で踊っている「60秒で全身スキャン」というキャッチーな数字は、Midjourneyが公式ブログで掲げる目標値であって、現時点で実証された性能ではありません。The Vergeによれば、これまでにスキャンされた実績は約12人(about a dozen people)にとどまるとされています。一部参加者レポート(Latent.space)では、現行プロトタイプの1スキャンには20分前後かかっているという報告もあります。
加えて、Holz氏自身が「現時点でAIは画像再構成には使っていない」と発言したことも報じられています。Midjourneyの会社名から「AI再構成で短時間化を実現したのでは」と想像してしまいがちですが、現状の処理はAIを使わない超音波再構成だ、ということです。AIによる短縮はあくまで将来の課題として残されています。
長期目標も大きく出ています。2031年までに世界5万台展開・月間10億スキャンといった数字は、Midjourneyが公式に掲げる目標値であり、達成のロードマップや臨床エビデンスは現時点で示されていません。記事や社内資料で引用する場合は「目標」「掲げている」など修飾語を必ず付けて扱うのが安全です。
Midjourney Spaとは——サンフランシスコに2027年末開業予定の研究スパ

Spa構想は、技術以上にユニークです。報じられている内容を整理するとこうなります。
- 所在地:サンフランシスコ・Union Square、4階建ての医療センター
- 開業予定:2027年末(公式は“research spa”=研究スパと位置づけ)
- 設備:ホットタブ、サウナ、コールドプランジ、Midjourney Scannerを10台
- 演出:「黄金の光(golden light)」が柔らかく体をスキャンする、と公式表現
医療機関でもジムでもなく、「サウナの隣で全身を超音波スキャンする体験施設」を社運をかけて作る、という発想です。ヘルスケアとウェルネスの境目を曖昧にしながら、まずは「研究施設」という建て付けで運用してデータと知見を貯めていく構えに見えます。
医療×AIの活用は、画像装置だけでなく問診や臨床支援の側でも進んでいます。文脈をつかみたい方は以下の記事もあわせてどうぞ。
Claude for Healthcare解禁で医療AI競争が激化 — ChatGPT Healthとの違いも解説
FDA未承認の現状と段階的アプローチ・日本展開の論点

Midjourney Scannerは診断用途でのFDA承認をまだ取得していません。これは公式ブログで明言されています。
そこでMidjourneyが取っているのは、診断目的での承認を一気に取りに行かず、承認が不要な範囲(一般ウェルネス用途・体組成マップなど)からサービス提供を始める戦い方です。診断機能を拡張するたびにFDAにテスト結果を提出していく、という段階的アプローチが明らかにされています。「スパ」「研究施設」という建て付けは、規制分類を意識したウェルネス寄りの設計とも読めます。
日本市場の文脈で考えると、ここは薬機法・医療広告ガイドラインがそのまま当てはまる領域です。仮に同様の装置を国内で展開する場合、医療機器としての承認、自由診療施設としての位置づけ、健診類似行為の取り扱いなど、整理すべき論点が複数発生します。海外でのSpa開業をそのまま「日本でも体験できる」と紹介してしまうと、誤解を招きやすい領域です。
確定情報・未検証情報・今後の論点を整理
最後に、今回の発表で何が確定していて、どこからが未検証なのかを整理しておきます。
- 確定情報:新部門Midjourney Medicalの発表/Butterfly NetworkのForm 8-Kで開示された契約金額/2027年末のSpa開業計画/Holz氏自身の「現時点でAI再構成は不使用」発言
- 未検証情報(Midjourney側の主張):「60秒で全身スキャン」の実機性能/「MRI画質に匹敵」「MRIの約100倍速」の客観的裏付け/プロトタイプ1回20分という二次ソース報告
- 今後の論点:診断用途でのFDA承認取得時期/日本国内での薬機法・医療広告ガイドライン上の取り扱い/臨床医・放射線科医からの評価/2031年5万台目標の妥当性
参考にした主なソースは以下です。
- Midjourney Medical 公式ブログ「A New Era of Midjourney」
- Butterfly Network「Butterfly Ultrasound-on-Chip Powers Midjourney Body Scanner」プレスリリース/SEC Form 8-K(2025年11月17日提出)
- The Verge「Midjourney Medical goes from AI image generation to full-body ultrasounds」/「Something’s off with Midjourney’s pivot to body scanners」
- Ars Technica(Ahmad Abbas氏の経歴)/Business Insider・MarketWatch(一般読者向け報道)
- 厚生労働省「医薬品等の広告規制について」(日本の規制文脈)
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