
AIエージェントを本格的に動かし始めた方なら、一度は「これ、コストが青天井になるのでは」とヒヤッとした経験があるのではと思います。エージェントは1回の指示に対して裏で何度も思考し、ツールを呼び、結果を読み、また考えるという動作を繰り返します。そのたびに出力トークンが積み上がっていく構造です。
そんな中、Googleが2026年7月21日(米国時間)に、新しいGeminiモデルを3つ同時に公開しました。Gemini 3.6 Flash(ジェミニ3.6フラッシュ)、Gemini 3.5 Flash-Lite(ジェミニ3.5フラッシュライト)、そしてGemini 3.5 Flash Cyber(ジェミニ3.5フラッシュサイバー)の3本立てです。共通しているのは、ベンチマークの数字を派手に伸ばす方向ではなく、高速・低コスト・省トークンに全振りしてきたことです。
この記事では、3つのモデルがそれぞれ何者で、どう違い、あなたの職場ではどれをどう使い分けるべきかを、一次ソースで確認できた数字だけを使って整理します。
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※出典:株式会社東京商工リサーチ「法人向けリスキリングサービスに関する調査」(2026年5月/調査期間:2026年3月26日〜4月17日/調査方法:デスクリサーチおよびヒアリング/2026年3月末時点)
目次
まず全体像——同時発表された3モデルの役割分担

今回の発表は「1つの新モデル」ではなく「役割の違う3つ」がまとめて出てきた形です。最初に全体像を押さえておくと、以降の話が整理しやすくなります。
- Gemini 3.6 Flash — 主力(ワークホース)の後継。コーディング・知識作業・マルチモーダルを担う中核モデル
- Gemini 3.5 Flash-Lite — 3.5系で最速。大量処理・低レイテンシに全振りした軽量モデル
- Gemini 3.5 Flash Cyber — ソフトウェアの脆弱性を発見・検証・修復する特化モデル(政府・信頼できるパートナー限定)
料金と提供状況を並べると、性格の違いがはっきりします。
| モデル | 入力(100万トークン) | 出力(100万トークン) | 誰向けか |
|---|---|---|---|
| Gemini 3.6 Flash | $1.50 | $7.50 | 日常業務からエージェント開発まで全般 |
| Gemini 3.5 Flash(前世代) | $1.50 | $9.00 | ─(3.6 Flashの前身) |
| Gemini 3.5 Flash-Lite | $0.30 | $2.50 | 大量・反復処理を安くさばきたい人 |
| Gemini 3.5 Flash Cyber | 非公開(限定提供) | 非公開(限定提供) | 政府機関・信頼済みパートナー |
(出典: Google「Gemini API 料金」)
注目したいのは、主力の3.6 Flashが前世代から値下げされて登場したという点です。新しい世代が出るときは同額か値上げになることも珍しくないので、ここは素直に歓迎できる変化です。
なお、あわせて気になる情報も出ています。Googleは今回、上位モデルのGemini 3.5 Proがまだテスト中であること、そして次世代のGemini 4について「これまでで最も野心的な事前学習を開始した」と述べています(出典: Google公式ブログ)。正直なところ、3.5 Proは当初5月末と言われていたのにまだ公開されないままで、そこは気になっています。
Gemini 3.6 Flashとは——出力トークン17%削減と値下げが同時に来た

今回の主役が、主力モデルの後継となるGemini 3.6 Flashです。Googleはこれを、コーディング・知識作業・マルチモーダルなタスクを、より速く・より正確に・そしてタスクあたりのトークンを大幅に減らしてこなすモデルだと説明しています。
いちばん語られている数字が「17%」です。Googleは、Gemini 3.6 Flashが前世代のGemini 3.5 Flashに比べて出力トークンの使用量を17%削減すると説明しています(Artificial Analysis Index基準)。さらに、長い工程をこなすエンジニアリング系のベンチマーク(DeepSWE)では、最大65%のトークン削減になるとしています。
ベンチマークのスコアも、前世代から素直に伸びています。
| ベンチマーク | Gemini 3.5 Flash(前世代) | Gemini 3.6 Flash |
|---|---|---|
| DeepSWE(自律的なコーディング) | 37% | 49% |
| MLE Bench(機械学習エンジニアリング) | 49.7% | 63.9% |
| OSWorld-Verified(PC操作) | 78.4% | 83.0% |
| GDPval-AA v2(実務タスク) | 1349 | 1421 |
(出典: Google公式ブログ)
ここで、なぜ「トークン削減」がベンチマークのスコア以上に実務で効くのかを補足します。
冒頭でも触れたとおり、エージェントは1つの指示に対して裏で何度も出力を生成します。中間的な思考、ツール呼び出しの指示、結果の要約——これらはすべて出力トークンとして課金対象になります。つまりエージェント用途では、回答の見た目の長さではなく「裏で吐き出した出力トークンの総量」がコストを決めます。
そこに今回、出力単価の値下げ($9.00→$7.50)と出力トークン量そのものの削減(17%)が同時に効きます。単価だけ、あるいは効率だけが改善したのではなく、掛け算になっているのがポイントです。あなたの職場で「エージェントは面白いけれど、本番でずっと動かすとコストが読めない」と足踏みしていたなら、その前提が一段変わったと言えます。
Gemini 3.5 Flash-Liteとは——350トークン/秒で大量処理をさばく

2つ目のGemini 3.5 Flash-Liteは、3.5系のなかで最速・最も低コストなモデルです。低レイテンシ(待ち時間の短さ)と高スループット(大量処理)の両方が要る場面のために設計されたと説明されています。
出力速度は毎秒350トークン。料金は入力$0.30・出力$2.50(いずれも100万トークンあたり)で、主力の3.6 Flashと比べると出力単価は3分の1程度です。
軽量モデルというと「安いけれど賢くない」という印象を持たれがちですが、前世代からの伸びはかなり大きいです。
| ベンチマーク | 前世代 | Gemini 3.5 Flash-Lite |
|---|---|---|
| Terminal-Bench 2.1(ターミナル操作) | 31%(3.1 Flash-Lite) | 54% |
| SWE-Bench Pro(実務的なコード修正) | 49.6%(3 Flash) | 54.2% |
| OSWorld-Verified(PC操作) | 65.1% | 74.0% |
| GDM-MRCR v2(長文の読み取り) | 60.1% | 72.2% |
(出典: Google公式ブログ)
Googleは向いている用途として、書類の処理やエージェントによる検索といった「反復的で件数が多い処理」を挙げています。私の感覚では、ECサイトの商品データ処理、書類の翻訳、問い合わせメールの仕分けのような大量バッチに刺さる構成です。
こうした処理に最上位のモデルを使うのは、コスト面で明らかに過剰です。件数が多くて1件あたりは単純な処理をFlash-Liteに寄せ、判断が要る部分だけを3.6 Flashに任せる。この二段構えを設計できると、全体のコストは目に見えて下がります。
Gemini 3.5 Flash Cyberとは——脆弱性の発見・修復に特化(限定提供)

3つ目のGemini 3.5 Flash Cyberは、これまでの2つとは毛色が違います。Gemini 3.5 Flashをベースに、ソフトウェアの脆弱性を見つけ、それが本物かを検証し、修正パッチを当てるという一連の作業に特化してチューニングされたセキュリティ専用モデルです。
利用形態も特殊で、Googleのコードセキュリティエージェント「CodeMender」経由でのみ提供され、当面は政府機関と信頼できるパートナーに限定した限定アクセスのパイロットプログラムとして扱われます。一般のAPIから選べるモデルではありません。
一般には使えないモデルですが、Googleが公開した検証結果は、専用モデルという発想の効きどころを示していて興味深いものです。Google DeepMindは、JavaScriptエンジン「V8」を対象にしたテストで、Gemini 3.5 Flash Cyberが55件の固有の脆弱性を確認したのに対し、ベースとなった通常の3.5 Flashは47件だったと報告しています。また、Chrome・Safari級の複雑さを扱うBig Sleepの評価では、通常の3.5 Flashおよび3.6 Flashを大きく上回ったとしています(出典: Google DeepMind「Introducing Gemini 3.5 Flash Cyber」)。
ここから読み取れるのは、汎用の最新モデルを使うより、用途を絞った軽量モデルのほうが結果が良くなる領域が確かに存在するということです。あなたの職場でAIを業務に組み込む際も、「1つの万能モデルで全部やる」より「用途ごとに適したモデルを組み合わせる」という発想が、これからますます現実的になっていきます。
Gemini 3.5 Flashそのものの性能・料金・使い方を基礎から知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
Gemini 3.5 Flashとは?性能・料金・使い方を徹底解説
どこで使えるのか——提供チャネルは同日から広い

新しいモデルが出ても「自分たちが普段使っている環境で使えるのはいつになるのか」が分からないと、現場ではなかなか動けません。過去には、発表から実際に手元で使えるようになるまで数カ月かかるケースもありました。その点で今回は立ち上がりが速いのが特徴です。
Gemini 3.6 FlashとGemini 3.5 Flash-Liteは、発表と同日から次の環境で提供が始まっています(出典: Google公式ブログ)。
- Geminiアプリ — 一般ユーザー向け。モデル選択から切り替えて使う
- Google検索 — Gemini 3.5 Flash-Liteが展開中
- Gemini API(Google AI Studio・Android Studio) — 開発者向け
- Google Antigravity — Gemini 3.6 Flashが開発者向けに利用可能
- Gemini Enterprise(エージェントプラットフォーム/アプリ) — 法人向け
いちばん手軽に触れるのはGeminiアプリです。入力欄の右側にあるモデル選択をクリックすると、実際に次のように出てきます。

私の環境では「3.6 Flash(あらゆる場面でサポート)」にNewのバッジが付き、あわせて「3.6 Thinking(複雑な問題を解決)」「3.1 Pro(高度な数学とコーディングに最適)」が並んでいました。難しい設定は要らず、ここを切り替えるだけで新モデルを試せます。まずは普段の作業を3.6 Flashで一度流してみて、返ってくる速さと内容を見るのがいちばん早い確認方法です。
これに加えて、開発者にとって身近なGitHub Copilotでも同日から使えるようになりました。GitHubの公式チェンジログによると、対応プランはCopilot Pro・Pro+・Max・Business・Enterpriseで、BusinessとEnterpriseでは管理者が「Gemini 3.6 Flash Preview」のポリシーを有効化しないと組織のメンバーが選択できません。GitHubは初期テストで、コーディングとエージェント的なワークフローの両方において、前世代より高いタスク完了率とトークン効率を示したと説明しています(出典: GitHub Changelog)。
普段Copilotでコードを書いている方なら、モデル選択のドロップダウンから切り替えるだけで今日から試せます。社内でGoogleのエンタープライズ環境を使っているなら、Gemini Enterpriseで検証を始められます。「モデルが良くなったのは分かるが、うちの環境に来るのは数カ月先」という従来のもどかしさは、今回は小さいです。
3モデルをどう使い分けるか

3つ出てきたと言っても、一般の環境で実際に選択肢になるのは3.6 Flashと3.5 Flash-Liteの2つです。そして、この2つを処理の性質で切り分けられるかどうかが、そのままコストの差になります。判断軸はシンプルです。
- 判断・生成の質が要る仕事 → Gemini 3.6 Flash。資料の作成、コードの実装、複数手順のエージェント処理
- 件数が多くて1件は単純な仕事 → Gemini 3.5 Flash-Lite。分類、抽出、翻訳、要約のバッチ処理
- 脆弱性診断 → Gemini 3.5 Flash Cyber。ただし現状は限定提供なので、一般の選択肢には入らない
いちばん避けたいのは、全部を1つのモデルで回して「AIのコストが高い」と結論づけてしまうことです。処理の性質ごとに担当を分けるだけで、体感のコストは大きく変わります。
まとめ——Gemini 4への布石と、今すぐ試すべき理由

今回のポイントを改めて整理します。
- Gemini 3.6 Flash — 出力トークンを前世代比17%削減(DeepSWEでは最大65%)。出力単価も$9.00→$7.50へ値下げ。DeepSWE 49%・MLE Bench 63.9%・OSWorld-Verified 83.0%と前世代から全面的に向上
- Gemini 3.5 Flash-Lite — 毎秒350トークン、出力$2.50/100万トークン。大量・反復処理の担当として使い分ける前提のモデル
- Gemini 3.5 Flash Cyber — 脆弱性の発見・検証・修復に特化。CodeMender経由で政府・信頼済みパートナー限定のパイロット提供
- 提供の速さ — Geminiアプリ・Google検索・Gemini API・Antigravity・Gemini Enterprise、そしてGitHub Copilotで同日利用可能
- 次への布石 — Gemini 3.5 Proはテスト中。次世代のGemini 4は「これまでで最も野心的な事前学習」を開始済み
今回の発表で私が最も意味があると感じたのは、Googleが「ベンチマークの数字」ではなく「実運用のコスト」を主戦場に選んだことです。エージェントを試作までは進めたものの、本番で常時動かすコストが読めずに止まっている——そんな段階なら、17%削減と値下げは検証を一歩前に進める十分な理由になります。まずは普段お使いのGeminiアプリやGitHub Copilotでモデルを切り替えて、既存の処理でコストと精度がどう変わるかを小さく試してみてください。
一方で、モデルが次々に入れ替わるこの状況で成果を出す鍵は、最新モデルを追うこと以上に「自社の業務のどこを、どのモデルに任せるか」を判断できる人が社内にいるかどうかです。今回のように役割の違うモデルが同時に3つ出てくる流れは、これからも続きます。ツールの進化に現場が振り回されず、使い分けを設計できる状態をつくることが、結局いちばんの近道になります。
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※出典:株式会社東京商工リサーチ「法人向けリスキリングサービスに関する調査」(2026年5月/調査期間:2026年3月26日〜4月17日/調査方法:デスクリサーチおよびヒアリング/2026年3月末時点)

