
近年、ChatGPTなどの生成AIの登場・普及が世界的に話題となっているように、AIは人々の暮らしや仕事をより便利に・効率的にするツールとして大きな注目を集めています。
企業のさまざまな部門で、業務効率化や顧客体験の向上、意思決定の精度向上など、多くの用途でAIが活用されています。
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2025年6月26日、OpenAIが人工知能業界に衝撃を与える新たな発表を行いました。最新の推論モデル「o3-deep-research」と「o4-mini-deep-research」をDeep Research APIとして一般提供開始したのです。この革新的な技術は、従来の検索機能を遥かに超越し、人間のリサーチアナリストが数時間かけて行う作業を、わずか数十分で完了させる画期的な能力を持っています。
目次
Deep Research APIとは何か
OpenAIのDeep Researchは、単なる検索ツールではありません。これは真の意味での「エージェント型AI」であり、複雑な多段階リサーチタスクを独立して実行できる革新的なシステムです。従来のAIが提供していた単発の回答とは根本的に異なり、Deep Researchは以下の特徴を持っています:
主要な革新ポイント
自律的な情報収集能力:一つのプロンプトから、AIが自動的に数百のオンラインソースを発見・分析・統合し、リサーチアナリストレベルの包括的なレポートを生成します。
多段階推論プロセス:単純な検索結果の羅列ではなく、発見した情報に基づいて新たな仮説を立て、それを検証するための追加調査を行うという、人間の研究者と同様の思考プロセスを実装しています。
完全なトレーサビリティ:生成されたすべての情報に明確な引用元が付与され、情報の信頼性を容易に検証できる設計となっています。
対象ユーザーと用途
Deep Researchは特に以下の分野で働く専門家にとって革命的なツールとなります:
- 金融アナリスト:市場調査、競合分析、投資判断のための包括的な情報収集
- 科学研究者:最新の研究動向の把握、文献レビューの自動化
- 政策立案者:政策影響分析、国際情勢の包括的な調査
- エンジニア:技術動向の調査、特許分析、競合技術の評価
- 一般消費者:自動車や家電製品など、高額商品購入前の徹底的な比較検討
o3とo4-miniの基本性能比較
OpenAIが投入した2つのモデルは、それぞれ異なる用途と価格帯を想定して設計されています。
o3-deep-research:究極の推論能力

推論能力:最高レベル(5段階評価で最高位)
処理速度:低速(徹底的な分析を優先)
価格帯:$10-$40(入力・出力によって変動)
コンテキスト窓:200,000トークン
最大出力:100,000トークン
o3-deep-researchは、OpenAIの公式発表によると、従来のo1モデルと比較して20%少ない重大なエラー率を実現しています。特に以下の分野で卓越した性能を発揮します:
- コーディング:Codeforces競技プログラミングで新記録を樹立
- 数学・科学:MMMU(大学院レベルの多分野理解)でSOTA達成
- 視覚認識:画像、チャート、グラフィックスの分析で業界最高水準
- ビジネス分析:戦略コンサルティングレベルの多面的分析能力
o4-mini-deep-research:高速・高効率の実用モデル
推論能力:高レベル(4段階)
処理速度:中速(実用性を重視したバランス型)
価格帯:$2-$8(大幅なコスト削減を実現)
コンテキスト窓:200,000トークン
最大出力:100,000トークン
o4-miniは、サイズと費用に対して驚異的な性能を発揮する最適化されたモデルです。特筆すべきは、AIME 2024・2025数学競技において、Pythonインタープリターへのアクセスがある条件下で99.5%の成功率(pass@1)を達成したことです。
革命的な機能とその実用性
画像を用いた推論の実現
両モデルの最も革新的な機能の一つが、「画像との思考」能力です。従来のAIが画像を単純に認識するだけだったのに対し、o3とo4-miniは画像を思考プロセスの一部として統合できます。
実用例:
- ホワイトボードの手書きメモを解読して、複雑な数式や図表を理解
- 教科書の図表から情報を抽出し、関連する追加調査を実施
- 低画質や反転した画像からでも正確な情報抽出が可能
ツール統合による包括的分析
両モデルは、ChatGPT内のすべてのツールに完全アクセスできるよう設計されています:
ウェブ検索:最新情報の自動収集と分析
Python実行:データ分析、グラフ生成、統計処理
ファイル分析:PDF、Excel、その他文書形式の包括的解析
画像生成:必要に応じた視覚資料の作成
マルチモーダル連携の実例
例えば、「カリフォルニア州の夏季エネルギー使用量を昨年と比較してください」という質問に対して、モデルは以下のプロセスを自動実行します:
- 公共事業データの自動検索と収集
- Pythonコードによる予測モデルの構築
- 視覚的なグラフ・チャートの生成
- 予測に影響する主要因子の分析と解説
- 包括的なレポートの作成
ベンチマーク性能の詳細分析
Humanity’s Last Examでの歴史的成果

OpenAIのDeep Research発表によると、o3-deep-researchは「Humanity’s Last Exam」という総合評価テストで26.6%の正答率を記録し、新記録を樹立しました。この評価は3,000以上の選択式・記述式問題で構成され、100以上の専門分野をカバーしています。
従来モデルとの比較:
- GPT-4o:3.3%
- Claude 3.5 Sonnet:4.3%
- Gemini Thinking:6.2%
- OpenAI o1:9.1%
- OpenAI deep research:26.6%
この結果は、特に化学、人文・社会科学、数学の分野で顕著な改善を示しており、専門分野の情報を効果的に検索・活用する能力の高さを実証しています。
GAIA評価での新記録達成
GAIA評価は、現実世界の質問に対するAIの回答能力を測定する公開ベンチマークです。Deep Researchモデルは、推論、マルチモーダル理解、ウェブブラウジング、ツール使用習熟度が要求されるこの評価で、新たな業界記録を樹立しました。
専門家評価による実証
内部評価では、様々な分野の専門家がDeep Researchの性能を評価し、「数時間の困難な手動調査を自動化する」能力があると評価されました。特に注目すべきは、推定経済価値の高いタスクほど高い成功率を示したことです。
料金体系と費用対効果
o3-deep-researchの価格設定
テキストトークン価格(100万トークンあたり):
- 入力:$10.00
- キャッシュ済み入力:$2.50
- 出力:$40.00
o4-mini-deep-researchの価格設定
テキストトークン価格(100万トークンあたり):
- 入力:$2.00
- キャッシュ済み入力:$0.50
- 出力:$8.00
コストパフォーマンス分析

OpenAIの公式分析によると、o4-miniは前世代のo3-miniと比較して、コストパフォーマンスの面で大幅な改善を実現しています。特に2025年AIME数学競技の結果では、o4-miniがo3-miniを上回る性能を、より低いコストで提供することが実証されました。
実用的な費用対効果:
- 従来のリサーチアナリストの時給:$50-150
- Deep Research APIでの同等作業コスト:$5-20
- コスト削減効果:70-90%
実際の使用事例と適用領域
金融・投資分野での活用
競合分析レポート:
「ストリーミングプラットフォーム業界の競合分析」といったクエリに対して、以下を自動実行:
- 主要プレイヤーの市場シェア調査
- 各社の戦略・強み・弱みの分析
- 業界トレンドと将来予測
- 投資機会の評価
市場調査の自動化:
従来は数日かかっていた包括的な市場調査を、30分以内で完了。引用元も完全に記録されるため、レポートの信頼性も担保されます。
科学研究・学術分野での革新
文献レビューの自動化:
特定の研究テーマに関する最新論文を自動収集・分析し、研究ギャップや今後の研究方向性を提示します。
実験計画の最適化:
既存研究の分析に基づいて、新たな実験アプローチや改善点を提案する能力を持っています。
消費者向けサービス
製品比較・推薦:
「通勤用の最適な自転車」といった個人的なニーズに対して、以下を提供:
- 価格帯別の詳細比較
- ユーザーレビューの包括的分析
- 技術仕様の専門的評価
- 個人のライフスタイルに合った推薦
政策・コンサルティング分野
政策影響分析:
新たな政策提案の社会・経済影響を多角的に分析し、エビデンスベースの意思決定を支援します。
戦略コンサルティング:
企業の新規事業検討において、市場分析から競合調査、リスク評価まで包括的なインサイトを提供します。
技術的革新と強化学習の進歩
大規模強化学習の継続的スケーリング
OpenAIの技術解説によると、o3の開発において「より多くの計算資源 = より良い性能」という、GPTシリーズの事前学習で観察されたトレンドが、強化学習においても継続することが確認されました。
具体的な改善:
- 学習計算量:前世代から1桁の増加
- 推論時間:より長時間の思考が可能
- 性能向上:計算資源に比例した継続的改善
ツール使用の強化学習による最適化
従来のAIがツールの「使用方法」を学習していたのに対し、o3とo4-miniは「いつ、なぜツールを使うべきか」を推論する能力を強化学習によって獲得しています。
実装された能力:
- 目的に基づいたツール選択の最適化
- 複数ツールの戦略的な組み合わせ
- リアルタイムでの戦略変更と適応
エンドツーエンド強化学習の実装
Deep Researchは、困難なブラウジングと推論タスクを対象とした、エンドツーエンドの強化学習により訓練されました。この訓練により、以下の能力を獲得:
- 多段階軌道の計画と実行
- リアルタイム情報に基づく戦略変更
- 専門情報の効果的な探索
- 証拠に基づく推論プロセス
セキュリティと安全性への取り組み

包括的安全性評価の実施
OpenAIは両モデルに対して、これまでで最も厳格な安全性プログラムを実施しました。更新されたPreparedness Frameworkに従って、以下の3つの重要分野で評価を実施:
生物学・化学リスク:バイオリスク、有害物質に関する情報の適切な制限
サイバーセキュリティ:悪意のあるコード生成や攻撃手法の制限
AI自己改善:AIシステムの意図しない自己改良の防止
新しい安全性訓練データの構築
両モデルの安全性向上のため、OpenAIは安全性訓練データを完全に再構築しました:
新たな拒否プロンプトの追加分野:
- 生物学的脅威(バイオリスク)
- マルウェア生成
- ジェイルブレイク(制限回避)攻撃
推論LLMモニターの開発
画像生成における先行事例と同様に、人間が作成した解釈可能な安全仕様に基づく推論LLMモニターを開発。バイオリスク分野での適用では、人間による攻撃的なレッドチーミングキャンペーンで発生した会話の約99%を成功的にフラグ化しました。
Preparedness Frameworkによる評価結果
厳格な評価の結果、o3とo4-miniの両モデルは、Frameworkで定義される3つのカテゴリすべてにおいて「High」閾値を下回る結果となり、安全な使用が可能であることが確認されています。
従来モデルとの比較優位性
OpenAI o1からの進歩

エラー率の改善:o3は困難な実世界タスクにおいて、o1と比較して20%少ない重大エラーを実現
専門分野での優位性:
- プログラミング:Codeforces競技で新記録
- ビジネス・コンサルティング:戦略分析能力の大幅向上
- 創造的発想:新しい仮説の生成と批判的評価
競合他社モデルとの性能差
数学競技での圧倒的優位性:
- o4-mini:AIME 2024・2025で93.4%の正答率
- 競合モデル:60-80%程度の正答率
総合的な推論能力:
複数のベンチマークテストにおいて、o3とo4-miniは既存の全てのモデルを上回る性能を示しています。
コスト効率性の革命
従来の最高性能モデルと比較して:
- o4-mini:同等性能を75%少ないコストで実現
- o3:より高い性能をo1と同等のコストで提供
今後の展望と影響
研究開発分野への革命的影響
Deep Research APIの登場により、以下の分野で根本的な変革が予想されます:
学術研究の加速:
文献レビューから仮説生成まで、研究プロセス全体の大幅な効率化が期待されます。研究者は従来の情報収集作業から解放され、より創造的で高次の研究活動に集中できるようになります。
企業R&Dの変革:
新製品開発における市場調査、技術動向分析、競合分析が劇的に効率化され、イノベーションサイクルの大幅な短縮が可能になります。
ビジネス戦略への影響
コンサルティング業界の再定義:
従来のリサーチアナリストが行っていた作業の多くが自動化される一方で、より高度な戦略立案や意思決定支援に専門家の役割がシフトしていくと予想されます。
中小企業のエンパワーメント:
大企業だけが持っていた高度な分析能力を、中小企業も手頃なコストで利用できるようになり、競争の公平性が向上します。
AGI(汎用人工知能)への道程
OpenAIは、Deep Researchを「知識の統合能力」として位置づけ、これが新しい知識創造の前提条件であるとしています。この観点から、Deep Researchは同社のAGI開発における重要なマイルストーンと考えられています。
今後の展開予定:
- モバイル・デスクトップアプリへの展開:1ヶ月以内に完了予定
- 専門データソースとの連携:サブスクリプションベースや内部リソースへのアクセス拡大
- Operatorとの統合:調査と実行を組み合わせた、より高度なエージェント機能の実現
社会への広範な影響
教育分野での活用:
学生や研究者が高品質な情報にアクセスし、批判的思考を深めるためのツールとして活用が期待されます。
情報の民主化:
専門的な調査・分析能力が一般に広く利用可能になることで、情報格差の縮小に貢献する可能性があります。
新たな職業の創出:
AI tool specialistやデータキュレーターなど、人とAIの協働を専門とする新しい職種の需要が高まると予想されます。
まとめ:新時代への扉を開くDeep Research
OpenAIのDeep Research API、特にo3とo4-miniの登場は、単なる技術的進歩を超えて、人間の知的作業そのものの再定義を迫るものです。これらのモデルが提供する能力は:
従来不可能だった作業の実現:数百のソースからの包括的分析を数十分で完了
専門家レベルの洞察:人間のアナリストと同等以上の分析品質
圧倒的な費用対効果:従来の70-90%のコスト削減を実現
完全な透明性:すべての分析に明確な引用元を提供
特に注目すべきは、o4-miniが提供する「高性能と低コストの両立」です。従来、最高性能のAIモデルは高額な利用料が必要でしたが、o4-miniは多くの実用的なタスクにおいて、最高級モデルと遜色ない性能を4分の1のコストで提供します。
この技術革新により、AIを活用した高度な分析・調査能力が、大企業や研究機関だけでなく、中小企業や個人の研究者にも広く開放されることになります。これは、イノベーションの民主化と呼ぶべき歴史的な変化の始まりかもしれません。
今後数ヶ月から数年にかけて、Deep Research APIがどのように様々な分野に浸透し、従来の働き方や研究手法を変革していくのか、その動向から目が離せません。AIと人間の協働により実現される新たな知識創造の時代が、いよいよ始まろうとしています。