チャエン

株式会社DigiRise 代表取締役

チャエン

1. はじめに:ブラウザを“見て”操作するAIの登場

私たちが日々使っているWebブラウザは、今や生活や仕事に欠かせないツールです。ネットショッピングやレストラン予約、SNSへの投稿、あるいはメールや各種フォームの入力など、ほとんどのオンライン作業はブラウザを通じて行われます。しかし、これら一連の操作は“人間が画面を見て、手動で入力し、クリックする”というステップが必要でした。

OpenAIの「ChatGPT」は、テキストベースの質問応答や文章生成を行うAIとして一躍脚光を浴びましたが、実際のWeb画面を“見て操作”するまでは至りませんでした。しかし2025年1月、米国Proユーザー向けの研究プレビューとして公開された「Operator」は、GPT-4oと呼ばれる最新モデルの視覚認識機能および強化学習を組み合わせた「Computer-Using Agent (CUA)」をベースにしており、ブラウザそのものを自動的に扱う能力を備えています。

つまり、OperatorはWebページのスクリーンショットを読み取り、ボタンの位置やテキスト入力欄を把握し、マウス操作やキーボード入力を行って実際に“クリック”や“入力”ができるというわけです。これは、単純なテキスト命令にとどまらず、GUI(グラフィカルユーザインターフェイス)を介した実際の操作をAIが代行できる点で、画期的な進化といえるでしょう。

現在はアメリカのProユーザー向けプレビューが公開されている段階ですが、将来的にはPlus、Team、Enterpriseユーザー、そしてChatGPT本体への統合が予定されています。まさに、私たちの“ネットとの付き合い方”そのものを変革してしまう技術として、今、世界中で注目が高まっています。

2. Operatorとは?概要と主な機能

2.1. Operatorの概要

Operatorは、OpenAIが研究・開発している「Computer-Using Agent (CUA)」の一種です。GPT-4oという言語モデルに視覚認識と強化学習を追加することで、「Web画面を自分の目で見て操作できるAI」を実現しました。Webページのスクリーンショットを解析し、そこにあるボタンや入力欄を“座標指定”でクリックするだけではなく、ページタイトルや要素のラベルを理解して正しい場所をタップ・入力してくれます。

この図は、Computer-Using Agent (CUA)の動作の仕組みを説明
参考:https://x.com/K_Ishi_AI/status/1882606413358510537

これにより、従来のChatGPTが苦手としていた「ブラウザ上のインタラクション(実際にクリックやスクロールが必要な操作)」にも対応可能になりました。例えば、「このECサイトで○○という商品をカートに入れて、チェックアウト画面まで進んで」と指示すると、AIが勝手にブラウザを動かして商品を探し、カートに入れ、レジ画面へ遷移します。

2.2. 機能一覧

  • ブラウザ操作
    マウスクリック、キーボード入力、スクロールなど、ユーザーが普段行う動作をAIが自動的に行う。
  • 視覚認識
    スクリーンショットを解析して、ボタンやテキストフィールド、メニューなどを識別。画像認識技術を活用し、GUI要素の形状や文字ラベルから判断する。
  • 自律的タスク実行
    予約やフォーム入力、ネットショッピングの一連操作を連続で処理できる。ユーザーが高レベルなタスクを指示すると、Operatorが必要なステップを推論し、ひとつひとつ実行していく。
  • 安全対策
    ログイン情報や決済など機密度の高い操作時は、「Takeoverモード」を起動し、ユーザーが直接パスワードを入力する仕組みを採用。Operatorがパスワード情報を保有しないため、セキュリティ上のリスクを最小限に留められる。

2.3. 仕組みと動作イメージ

Operatorがどのようにブラウザ操作をしているかは、OpenAIの公式資料や「Introducing Operator」の記事に概要が示されています。特筆すべきポイントは、タスク入力→視覚情報解析→アクション生成→仮想マシン(VM)への実行という流れです。

1. 入力部分(Input to CUA)

• ユーザーから「○○してほしい」というタスクを文章で受け取る

• 画面のスクリーンショットを画像として取得

2. アクション生成部分(Sampled Actions Generated by CUA)

• GPT-4oの推論により、必要な手順をいくつも生成(例:検索キーワードを入力、Enterキー押下、特定の座標をクリック など)

• コードやChain of Thought(CoT)に相当する“思考過程”で、どうクリックするかを最適化

3. 実行部分(Commands are Applied to the VM)

• Operatorがコマンドを仮想ブラウザ(VM)に送り、実際の操作をシミュレートする

• ユーザーがログイン情報や最終確認をしないといけない場面では一時的に操作を停止し、ユーザーに切り替わる

これにより、User Interface(UI)の状況に合わせた“人間らしい”操作を再現できるというわけです。

2.4. ベンチマーク比較

参考:https://cloud.browser-use.com/

OperatorはAIエージェント業界でも注目を集めていますが、実際にはまだ発展途上の部分もあります。例えば、Browser-useという別のエージェントの方が精度が高く、成功率も高いケースが報告されているようです。加えて、人間の操作精度と比較すると、まだまだギャップがあるのが現状です。

  • Browser-use:精度が高く、ローカル利用からクラウド版も登場
  • Operatorの成功率:Webタスクで約58.1%、OS制御タスクで約38.1%というデータも(※一部公開資料より)
  • 人間の成功率:Webタスクならほぼ100%に近く、OS制御タスクでも72.4%程度と、現時点では人が操作したほうが確実

しかし、こうした数値も今後の強化学習やアルゴリズム改良で急速に向上していくと予想されています。リリース当初から比べれば、すでに大幅なアップデートがなされているケースもあるため、ベンチマーク結果は随時更新されるでしょう。

3. Operatorの使い方:具体的な手順

Operatorを使えば、日常的なWeb操作を“文章で指示するだけ”で自動化できます。ここでは、その大まかなフローを紹介します。

3.1. タスクの指定

まず、ユーザーはChatGPTや専用のUI上で、**「このECサイトで商品Aを探してカートに入れて」**といった形で目的を指示します。複数のステップが必要な場合でも、OperatorはAIの推論で手順を組み立ててくれます。

3.2. AIによるブラウザ操作

指示を受けたOperatorは、仮想ブラウザを起動し、スクリーンショットから要素を解析して実際に操作を開始します。

  • 検索バーの位置を特定し、検索キーワードを入力
  • 該当商品が表示されたらクリック
  • 買い物カゴに入れるボタンを見つけて押下

※このように、Operatorはユーザーが普段行う一連のクリックや入力操作をAIが代行してくれますが、機密性の高い場面ではユーザーが必ず介入する設計です。

といった一連の操作はすべて自動的に行われます。

3.3. セキュリティとTakeoverモード

クレジットカード情報や個人情報を入力する必要がある場面では、**「Takeoverモード」**が発動します。このモードでは、操作が一旦ユーザーに切り替わり、ユーザーが自分で機密情報を入力します。Operator自体には入力内容が共有されず、学習データや記憶に残らない設計になっています。

これにより、ログインや決済情報などの扱いに対しては、ユーザーが責任と安全性を確保しながら活用できるわけです。

3.4. 操作完了のフロー

実際の購入や予約完了など、重要な操作を実行する前には、Operatorが最終確認のメッセージを表示し、ユーザーからの承認を得たうえで作業を完了します。これによって、「間違った商品を購入してしまう」「予約日時を誤ったまま確定してしまう」などのトラブルを回避できるよう配慮されています。

4. Operatorで“できること”と“できないこと”

5. 活用事例5選:こんな場面で威力を発揮する

実際、Operatorや他のブラウザ操作エージェントを使った自動化事例がいくつも報告されています。その中から、特に有用とされる5つのユースケースを紹介します。

5.1. レストラン予約

日付・人数・希望の時間帯などを指定したうえで、ブラウザ上の予約フォームを入力し、最終的に確定ボタンを押すまでの工程を自動化できます。ログイン情報や決済が必要な場合、Takeoverモードでユーザー認証だけを行い、残りはAIに任せられます。複数のレストランを検索して比較・予約するなどのタスクも効率化が見込めます。

5.2. オンラインショッピング

特定の商品名で検索し、複数の商品をカートに入れ、レジ画面へ進む一連のステップをAIが代行します。ポイントやクーポンの適用、配送先の選択などもある程度自動化できます。ただし、実際の決済直前にはユーザーの承認やパスワード入力が必要になるため、セキュリティ面も安心です。

5.3. X(旧Twitter)自動投稿

投稿内容の作成から実際のポストまで、AIが自動的に行う取り組みが進んでいます。特にマーケティングで複数アカウントを管理している場合、毎回手動でログインや投稿を繰り返すのは大変ですが、Operatorに任せれば一括管理が可能になるでしょう。

5.4. フォーム入力・送信

氏名やメールアドレスなどシンプルな情報を大量に入力・送信する場合、Operatorに任せると非常に効率的です。例えば、新製品の問い合わせフォームや懸賞応募フォームなどを数十件にわたって送る必要があるケースなど、単調な繰り返し作業を軽減できます。

5.5. 簡単な情報収集

ニュースサイトや旅行サイトなどで、特定のキーワード検索を行い、上位結果を収集するといった作業にも活用できます。Operatorがブラウザ画面を見ながらスクロールやクリックをし、テキストを抜き出して一覧化してくれるイメージです。最終的な要約や比較表もAIが作成できれば、リサーチ時間を大幅に短縮できます。

6. 今後のChatGPTの未来:Operatorが変える世界

7. まとめ:Operatorがもたらす新時代のAIエージェント像

本記事では、OpenAIが研究プレビューとして公開しているブラウザ操作エージェント「Operator」について、機能や仕組み、具体的な活用事例を紹介しました。ポイントを振り返ると、下記のようになります。

1. OperatorはGPT-4oをベースにした視覚認識+強化学習のAIエージェント

従来のテキスト対話型AIを超えて、実際にWeb画面を“見て”クリックや入力ができる機能を搭載。

2. 高度な安全対策が特徴

ログインや機密情報が必要な場面では、ユーザーが直接入力する「Takeoverモード」を使うことで、セキュリティと利便性を両立。

3. 活用領域は多岐にわたるが、まだ発展途上

予約や買い物、情報収集など単純な操作ならば実用段階にあるものの、複雑なUIや想定外のエラー処理には弱さが残る。ただし、進化スピードは速く、数か月単位で性能アップが期待される。

4. 人とAIの協業が進む未来

ブラウザ操作のような単調な手作業をAIが代行することで、時間と労力を節約し、人はより創造的・戦略的な仕事に注力できる。

5. ChatGPTとの統合・ビジネス展開により社会の在り方が変わる可能性

今後はPlusやEnterpriseユーザーにも順次展開され、API連携が進めば、企業や公共サービスでの導入が急増するかもしれない。

Operatorが示しているのは、単に「AIが賢くなった」という話にとどまらず、「PC操作そのものをAIがやってくれる」時代の到来です。私たちが当たり前に行ってきたクリックや入力といった作業が自動化されることで、ビジネスも生活も大きく変わるでしょう。その一方で、セキュリティやプライバシーの課題も浮上してくるため、ユーザー側には「適切なAI活用法を学ぶ」姿勢が求められます。

技術の進歩はめざましく、2025年1月時点ではまだ研究プレビュー版のOperatorが、近い将来にはChatGPTに統合され、さらに高機能な形で私たちの元へやってくることはほぼ間違いありません。今後はAIが操作するための最適化されたWebデザインが当たり前になり、ブラウザ操作の概念そのものが大きく変わっていく可能性があります。

まとめると、「Operator」をはじめとしたブラウザ操作エージェントは、AIが“文章を読む”から“一連の手続きを実行する”へと進化した象徴的な存在です。人の手間を省きつつ、必要なタイミングで人間が介入できる仕組みが整いつつある今こそ、実用段階への加速と同時に、安全性の確保や倫理的側面への配慮が欠かせません。

こうした新技術の動向をウォッチし、自分自身の業務や生活でのメリット・デメリットを見極めながら、賢く活用していくことが、これからのAI時代を生き抜くうえでのカギとなるでしょう。

この記事の著者 / 編集者

チャエン

株式会社DigiRise 代表取締役

チャエン

法⼈向けのAI研修、及び企業向けChatGPTを開発する株式会社デジライズをはじめ、他数社の代表取締役。一般社団法人生成AI活用普及協会評議員を務めながら、GMO AI & Web3株式会社など他数社の顧問も兼任。NewsPicksプロピッカーも兼任。Twitterはフォロワー15万⼈。⽇本初AIツール検索サイト「AI Database」やAIとの英会話ができる「AI英会話」など複数のAIサービスも開発。ABEMAやTBSテレビなどメディア出演も多数。

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